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□相愛ジョナゴールド女史
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「はい、食べて!」
差し出されたのは、焼き林檎。
甘い匂いが部屋の中に充満する。
「あのね、あたしとマキが初めて会ったとき、マキがウサギさんの林檎くれたんだよ」
そんな昔の事、あたしはよく覚えていない。
ぽかんとしているあたしに沙紀は笑顔で語る。
「新しい保育園にまだ馴染めなかったあたしに、お弁当のウサギさんくれたの、この前夢に見て思い出して…嬉しかったんだぁ。その時、あたし何があってもマキとずっと仲良くしようって」
ふと出窓に目をやると小さなサボテンが置いてあるのに気付いた。
沙紀の誕生日にあたしがあげたやつ、まだ枯らさないで置いてるんだ。
「アップルパイ作りたいんだけど難しそうだし間に合わなくて。こんなんだけどよかったらどうぞっ」
焼き林檎を口に運ぶ。
…美味しい。あたしが覚えてない昔の事も、沙紀にとっては大事な思い出だったんだ。
「あのね、マキ勘違いしてるみたいだけど、あたし竜くんよりマキのが好きだからねっ!」
沙紀の言葉に思わず吹き出してしまう。
やっぱりあたしは沙紀の周りの人間に妬いていた。
あたしが思っているより沙紀はずっと良い子で、あたしは鈍感で、でもそんなあたしを好きだと言ってくれる。
勝ててないなぁ。
「あたしも沙紀、好き」
「あたしのほうがもっと好き!!」

あたしは特に勉強が出来るわけでもなければ運動が得意なわけでもない。美人でもなければ優しくもない。
それでもそんなあたしを好きだと言って、笑ってくれるあんたがいるからたった一人のあたしになれる。
そうやって嬉しそうに名前を呼ぶから、いつまでもこうしてられるような気がするんだよ。


END

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