テキスト
□始めましょう言葉をどうぞ
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「あら、私の名前ね」
それが僕と出会った時の初めて言葉だった。
放課後の誰もいない音楽室、僕の右手は踊る。
バイオリンは僕の一部となり奏でる音は僕の歌声
――僕の世界だ。
……なのに。
「あら、私の名前ね」
突如僕の世界に不必要な音が侵入する。
あぁ許し難いなぁ。
踊り歌う事を止めて僕はそう思いながらドアの方を見た。
――背の高い痩せた女だった。学年章が3年を表している。
金に染まった腰まである長い髪が印象的な…美人と言っても間違いは無さそうだ。
「はじめまして」
彼女は綺麗に微笑んだ。
けれど僕にとってそれはただ口角を持ち上げたに過ぎない事。
関わりたく無い……
黙ってバイオリンをケースにしまうと音楽室を出ようとした。
「待って」
女は僕を呼び止める。
なんだよもう
立ち止まると彼女を見た。
もちろん僕は不快感を隠すような事はしない。