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□始めましょう言葉をどうぞ
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「続けて」

彼女はまた微笑むと遠慮も無く音楽室へと足を踏み入れる。
放課後に一般生徒のために開放されている音楽室に入る事を咎める権利は僕には無い。

そして続けてと言われてももう今日はその気は起き無い。

再び僕が部屋を出ようとした時、
「私はねミソノっていうの。見るっていう字に公園の園ね。一応高等部3年。あなたは?」

いきなりの自己紹介。自ら名乗られては僕も答え無いわけにはいかなかった。

「相楽。下の名前は信。相殺の相に後楽園の楽、不信任の信。学年はあなたより一つ下」

「素敵な自己紹介だわ」


嬉しそうに目を細める。

「相手…楽を信じる、相楽信さんね」

何だか引っ掛かる言い方だった。

「あなたの音楽…メロディは素敵」

褒められても今更。僕はやっぱり部屋を出る事に決める。
と、その前に彼女…見園はドアの前に戻り、僕のほうを振り向いた。
「また来るわ」

瞬間、彼女の髪が揺れる。

「私の名前って何ですか」

ふと思い出した。口に出すとますます不思議に思える。

「ああ、あれね…」

クスっと笑う見園。
僕はそんな笑い方は好きじゃない。

「そのまんまの意味よ。音楽。楽と書いてメロディ、それが私の名前」



見園楽。

これが僕と彼女の初めて出会った日の事だった。


END


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