テキスト
□フェブラリ
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愛しい人の手が冷たいと悲しい気がする。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「何」
「手冷たいよねお兄ちゃんて」
「うん」
「だめだよあっためなきゃ」
「いいよ別に」
日曜夜19時のリビング。
兄の手を握る私。
それを拒む兄。
私は大きくも無く小さくも無い溜め息をつくとぽつりと呟く。
「お父さんも冷たいんだよね」
兄は聞いているのかいないのかずっとテレビに目を向けていた。
兄の匂いが鼻をかすめる。
長めの前髪がうっとうしい、この前あれだけ切れって言ったのに。
「冷たくなるのは50年後でいいよ」
私は再び呟くと、もう一度、今度はゆっくりと兄の手を握る。
生まれた時から私を知ってる人。
どうかあたたかなあなたでいて。