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□ある一つの、
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俺は弟が怖い。

「ねえ健吾」

一卵性双生児で、お互いの天然クローンな俺達はやはり昔から他人に見分けられず間違えられたりしていた。
双子歴14年の今となっては慣れっこだが、幼い俺は弟の優吾と間違われるのが苦痛だった。

アイデンティティ。
自己の確立。
個人の証明。


「健吾」

だが優吾は違った。
間違えられる事を楽しんでいた。

(そうでしょ全然わかんないでしょだって僕ら双子だもんね、ね、健吾。)

「健吾」


個性が完全に確立された今、間違われる事は少なくなったが、俺は優吾がトラウマだった。

(おばさん、お菓子くれるならこれの倍くれなきゃダメだよ。僕らは双子なんだよ。何でも他の人の倍必要なんだ)

双子である事をウリにしていた優吾。


「健吾ってば」


俺は、俺、は、


「いい加減にしないと怒るよ健吾」


健吾、俺、優吾、弟、健吾、俺、おれ、優吾…



俺?






(きみはぼくだよ)









俺は、俺?








「健吾!!!」

「え?」

「さっきから呼んでるじゃん」

「…」

「ご飯、今日外食だって。早く準備しよ」

「あぁ、うん…」









オレハホントウニオレデアリオレナノカ?












(なぁ、優吾、一回俺達入れ替わろうぜ。)

(大丈夫、父さんや母さんだって気付きやしないって。俺達、なんてったって双子だからな)

(わかったか?ちょっとだけ、みんなをからかってみるだけだから)

(今から俺が優吾で、お前が健吾。僕が優吾で、君が健吾)

(僕は君で君は僕だよ)






(きみは、ぼくだよ)











































「優吾」

「なに?早くしてよ健吾」

「…健吾?」








(きみは、ぼくだよ)




















「…何だよ?」














俺は、誰?




キミハ、

ダレ?





目の前に立って居る「オレ」は、座って居る「俺」を見下ろすと、静かに、

笑った。



(アイデンティティ、
自己の確立。個人の証明。)


END

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