テキスト

□チリン
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月が高々と空。
夜。静けさ。



「やあ」

チリン

小さく響く金属音。
闇に紛れるその身体、しなやかに。軽やかなその足には毛が生えていた。

「また会ったね」


彼(あるいは彼女)に声をかける。
返事は、無い。


僕と彼(彼、だと僕は思う)の出会いは今から1ヶ月前だった。

夜の中僕はただ立っていた。
歩くわけでも無く、座るわけでも無く、ただ、
立っていた。


消えてしまいたかったのだ。
絶望したわけでは無い

ただ消えてしまいたかった。

きっと、それが出来るような気がした。

この黒に溶けることが出来たら
僕が白すぎると言うなら
それすらも飲み込んで
きっと一つになりたい





「……」


おいでよ、君はいつだって僕を避けて歩くね

この闇の中ではただ君のチリンだけが光だ。


僕もチリンが欲しい



「チリン
チリン
チリン」



時々さみしい(本当はずっと何かになりたくて欲しくて、たまらなかったのだろう)



僕は何にもなれない(と認めてしまうのはとても嫌なんだけれど)



実は知らない(いや本当は知っているんだけど、しかもそれはきっと意味のあること)



空を見上げている(それこそ意味の無いことだ、僕の頭の上には何もなかった)



孤独だ(それゆえに)



何もかもに惹かれる(馬鹿は嫌だ)



生意気な人間だと思う(僕は僕をある程度評価している。しかし、人間、か…)



「……」



そうさ僕は一人さ(一人では無く一つになりたい)



でも近付いて
紛れて
溶けて
鳴れよ



そうして僕を許してくれれば(何に?何に対して許しを請うのだろう?僕は何か悪い事をしたのだろうか?)



ねえ僕は君みたいになれるのかい、チリン。




END(終わりなんて無ければいいのに世界と僕はそれを許さない)
(僕はまだ許されないことを許されていない)




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