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□南の国のチタ
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遠い遠い、南の国に、チタという正直な娘がいました。

チタは、父さん、母さん、兄さんと四人で暮らしています。
チタは、家族みんなのことが好きでしたが、兄さんのいたずら好きには困り果てていました。
「お兄さん、またつまみ食い?」
「母さんには内緒だぞ。」
しかし、正直者のチタは、
「まあ、りんごが五つあったのに、一つ少ないわ。チタ、あなた知ってる?」
そう母さんにきかれると、
「ええ、お兄さんがつまみ食いをしているのを見たわ」
と、正直に答えます。
そんなある日のことでした。
チタが山へ薬草を採りに行ったとき、奥の小屋からなにか話し声がきこえます。
いけないと思いながらも、チタは聞耳をたててしまいます。
「妹のチタはいつでもおれのいたずらを告げ口するんだ。今度、森のずっと奥まで連れて行って置き去りにしてやる。南の国の森は、迷いやすいからな」
何と、中ではお兄さんが友達にそう話していたのです。チタは恐ろしくなり、その場から逃げ出しました。

チタは、考えました。
わたしは家族みんなのことが好きだけど、お兄さんはわたしが嫌いなんだわ。
知ってしまったからには、元のように仲の良い兄妹には戻れません。
「お父さん、お母さん、わたしは外の世界をもっと知るために旅に出たいのです」

チタは、生まれて初めて嘘をつきました。
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