テキスト
□エリアナ
1ページ/3ページ
なんでロボットに恋をしてはいけないの?
だったらなんで心なんて作ったの?
「ユークリッド」
日課である書庫の整理をしている彼。息も切々にその名を呼ぶ。
「エリアナ」
ここまで全力疾走で走ってきた私に驚き目を見開くも、次の瞬間には優しくいつもの笑顔を向けてくれる。
乱れた私の髪をその手でとかしながら、優しい声で彼は囁く。
「どうしたの?」
「シャリーが…シャリーがっ…」
その言葉で察したのか、そう…と小さく呟くと彼は目を伏せた。
書庫、といっても私達メイドや執事たちの教科書や、ごく簡単な文学書が納められているこの部屋には、彼と私以外に誰もいない。
いつもここに行けば彼…ユークリッドに会えるということを知ってからは、毎日私は足しげく通い続けた。この小さな想いが通じたのはいつ頃だったろうか。少し前のような気がするし、もう何年も前だったような気がする。
「ついに、活動を停止したんだね」
小さく動く彼の唇を見ながら泣きそうになる。
私が彼女…同じメイド仲間であるシャリーの訃報を耳にしたのは、つい数分前のことだっただろうか。
「そう…みたい…」
絞り出すように私も答えた。我ながら酷い声だと思う。
「しょうがないよ。彼女はロボットだ」
ユークリッドの声はどこまでも優しい。例えるなら春の午後の日差しに似ている。柔らかく、暖かく、心が満たされるような。
それでも今の私には届かない。押し寄せる悲しみと絶望に身体が震える。
「こんなの…王子様が可哀想すぎるよっ…」
「エリアナ、君は気付いていたんだね」
私はシャリーと一緒に当番を任せられることが多かった。気付かないわけがない。
シャリーがクロス王子を見る目と、クロス王子がシャリーを見る目は同じだった。二人は恋をしていたの。
「ユークリッドも?」
そう言うと彼は笑いながら、でも少し悲しそうに答えてくれる。
「だってずっと俺は君を見ていたから。君を通してシャリーを見ていたから」
抱きしめられると、ふんわりと彼の良い匂いがする。洗濯に使っている洗剤は同じなのに、何故彼のシャツからはこんなにも良い香りがするのだろう。
嗅ぎ慣れた香りに安心したのか、私の震えが落ち着くと、彼の腕から私はゆっくりと解放された。