short-微甘

□超運命
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 暖かい教室でホームルームが始まるのを待っていると、隣りの席から呑気な声。

「緒方くん。私ね、19歳になったら、運命の人に出会えるんだってー。」

 語尾を伸ばす相変わらずの緩い話し方。
 こう言う話し方は基本的に嫌いなはずなのに、可愛い、と思ってしまうのは惚れた弱みなんだろう。

「はぁ?何を根拠に?」

「手相を見てもらったのー。そこ、すっごく当たるって有名なんだって」

「そんなん信じんの?」

「緒方くんは、夢が無いなー。別に信じてたって良いでしょー?」


「……困るんだけど」

「え?」

「だって、俺が平井さんに会ったのって18歳だろ?」

 しかも、俺らはまだ18歳。
 そうすると、平井さんの言う運命の人は確実に俺では無い訳で。
 運命の人に憧れている彼女を密かに想い続けているこっちとしては非常に困る、この状況。


「んー」

「俺の言ったこと分かってる?」

「…多分、分かってる。これは、『告白されてるかも?』と解釈して良ろしいのでしょうか?」

「勝手に取ってどうぞ。どうせ平井さんが信じてる運命の人は俺じゃ無いんだし」

「確かに、手相に出てる運命の人では無いのかもね。けど、何も問題は無いんじゃないかなー?」

「は?」

「だから、緒方くんが私の手相に出てる運命の人を超えれば良いってだけだよ。でしょー?」

「そう、……だな」

「一年後、私が出会うかもしれない運命の人以上の存在になってて下さいねー」

「が、頑張らせてもらいますよ」

 そう言って、一年後のまだ見ぬ男にライバル心を燃やす俺は若干滑稽にも思える。
 そもそも、手相が当たるか何て分からない訳だし。


「とりあえず、緒方くん。今日から一緒に帰ろうね?」

 けど、そう顔を赤くしながら言った平井さんを見ると、滑稽でも良いかななんて思うんだ。


 超運命
(運命だって超えてやる。)







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