short-微甘

□雪の上の平行線
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 ローファーを履いた足の先の感覚が無くなる。


 それもそのはず。
 雪がこんなに積もっているんだもの。


 今朝から降り続いていた雪はいつの間にか降り積もり、帰宅する私達に銀色の絨毯を用意していたらしい。



「ちょっと。何してんの?」

「平行線に打ち勝とうとしてんの」


 横並びで歩いていたはずの水野くんは、いつの間にか私の後方に。


 昇降口から校門に向かって、私達の後ろには二本の足跡が刻まれている。


 ……はずだった。



 何故か途中からは一本。

 私の真っ直ぐ伸びる足跡の上を蛇行しながら歩いている水野くん。



「あのー。水野くん?やってることの意味が分らないんですけど」


「意味?えっと、隣りに並んで真っ直ぐ歩いて行くと、俺らの足跡はずっと平行線な訳。分かる?」

「…うん。それは分かるんだけど」

「ならオーケー」




 いやいや、全く説明になっていませんからね。


 意味不明なまま。



 確かに、真っ直ぐ歩く私達の足跡はずっと平行線。




 それは確かなこと。

 こんなこと、数学とか物理が苦手な私でもいくらなんでも分かる。


 私が知りたいのは、何でそんなことをしてるのか、ってこと。



 いつまでも首をかしげる私を見て、少し息を吐いて水野くんが言葉を続けた。



「だからー。このままだと、俺らの足跡は平行線になるの」

「それ、さっきも聞いたよ」






「じゃあさ、平行線ってどんな線だよ?」


「そりゃ、どこまで行っても交わらない線のことだよ」


「そうだよ。一生交わらないの」


「うん」






「俺、金井さんの人生に交われないなんて嫌過ぎる」


「……それって。私の人生がこの足跡に例えられてる訳?」

「そうだよ」





「けど、こうやって一緒に帰ってる時点でわりと交わってると思うんだけど?」


「何か、そう言うのじゃなくてー。もっとディープな交わりが良いんだけど」


「ふーん。ディープ、ねぇ?」




「……伝わってる?俺は金井さんとの関係が平行線なのは嫌な訳。このままは嫌な訳」



「………」

「会ったら挨拶する。偶然会ったら一緒に帰る。……それだけの関係は嫌なんだよ」



 急にする真剣な顔。


 こんな水野くんの顔、見たこと無い。



「けど、急に言われても、そんなの分かんない」



「うん。混乱するだろうって分かってたよ。
だって、金井さんは俺のことを友達とでしか見てないことには気付いてたから。
それでも言っておきたかったんだ。
気持ちの整理が付くまで返事はいつまで待つよ」






「いつまでも?」




「そう。俺って結構しつこいんだよ?」







 言い終わると、蛇行を止めて私の隣りに並ぶ水野くん。





 顔が赤く見えるのは、雪のせいで寒いからかもしれないし、そうじゃないかもしれ無い。







 けど、私の顔がほんのり紅くなってるのは、きっと水野くんのせい。






 だって、さっきまでとは違うこの鼓動がその証拠。







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