スキだけじゃ変わらないコト

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 初めて彼を教室で見た時、彼を通して別の人を見てしまった。
 左耳にある大きく拡張された穴。
 私の視線を奪うのはそれだけで充分だった。

「……あ」

「何すか?」

「んー……」

 ソレをちらりと目にした瞬間、即行動。
 耳にかかる長い髪をサラッと払いのけ、ホルターの入ったそれをマジマジと見つめる。

「え?……いや。は?」

 彼が困惑するのは無理もない。
 この行動を取るまで私は彼と言葉を交わしたことがなかったのだから。
 けど、初対面でも話せてしまうのがこの教室の醸し出す雰囲気なのだと思う。

「コレがさぁー…」

「ああ。ピアスっすか?」

「うん」

「『痛そうだよ』とか、そう言う言葉は聞き飽きてますから」

「いや。そうじゃなくて」

「へ?」

「めっちゃ綺麗だよね。その拡張」

「は?」



 男の人の目にしては大きな瞳を更に見開いて、彼は私を見つめる。
 そんな彼の視線に目もくれずに左耳を凝視する私。

「……珍しい人もいるもんだわ」

そう言うと、急に彼は噴き出して笑い出した。

「そんな変なこと言った?」

「いや。あの登場の仕方もウケたけど、こんな風に言われたの俺初めてっすよ〜」

「そうかね?」

「そうっすよ」

 そんな会話をしていると耳に聞こえるチャイムの音。


「笑ってないで勉強しなさい。受験生」

「変なこと言ってないで、生徒が待ってますよ。センセイ」

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