short-激甘

□足りない糖度をキスで補完
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「何か食べれそう?」



 そう言いながら心配そうに私を見る翔馬の顔。

 食べないと心配するんだろうけど、どうしても私の胃は食べる準備をしてくれない。
 熱はピーク時よりは下がって意識は回復したのに、胃は依然として活動をしてくれない。


 本当最悪……。



「その顔、無理そうだね。飲み物は?」

「……ポカリ飲んでる」

「他ので何か飲みたいのないの?」

「んー。あるけど……」

「何?」

「けど、翔馬には多分無理よ」

「言ってみるだけ言ってみろよ」

「けど……」

「良いから言って」


「……あったか蜂蜜ミルク」


「……へ?」

「だから。あったか蜂蜜ミルクが飲みたいの」


 小さい頃、風邪をひくと必ずお母さんが作ってくれてた、あったか蜂蜜ミルク。

「そ……れは、どんな味なんだい?」

「美味しい味」


「具体的には?」

「牛乳と蜂蜜の優しい味」


「んー。難しいなー」

「分かってる。だから別に何もいらないよ?」

「うーん。取り敢えず作ってみる。うん。そうしよう」

「いや、無理しなくて良いよ」



「やだ。珍しく佳奈が欲しいものとか言ったんだもん。これは作らなきゃだよ」

 意気揚々と部屋を出て行ったものの、その後キッチンから聞こえる不穏な音。
 お皿洗いしかできない翔馬に頼んだ私がいけなかったのよ。

 あぁ。
 やっぱり言わなきゃ良かったのかも。



「佳奈ー」

「何?」


 ひょっこりドアから顔を出した翔馬の手には、私のお気に入りのマグカップが一つ。


「もしかして……出来たの?」

 申し訳なさそうに首を横に振り、差し出してきたカップの中には、熱すぎない程度に温められた牛乳。


「……ホットミルク?」

「作ってみようとしたんだけど、蜂蜜なくて。だから、『あったかミルク』になっちゃったの。でね?」


 そう言って、おもむろに翔馬がホットミルクを口に含む。
 そのまま手を頭の後ろに回され



「んんんーっ!」


 口から注がれるホットミルク。
 含み切れなかった分が、だらしなく私の口から垂れていく。



「……んっ……ぁ…」


 長い間塞がれたことによって呼吸がままならなくなり、空気を求めて翔馬の胸を力一杯叩く。


「どう?不足してた甘さをカバーしてみたんだけど?」

 なんて言いながら、自分の口元についてたのをペロッと舌で舐める。


「……はっ…ぁ…」

「何?足りない?」

「……さ、いてい」

「佳奈。真っ赤な顔で言っても説得力無いよ」

「……息ができなかったのよ」

「鼻から息すれば良いだけのことじゃない?」


「……急なこと過ぎて考えられませんでした。」

「そうだねー。俺に応えるので一生懸命、って感じだったもんね。」



「……最低」


「んー?そんなこと言っちゃって良いのかなー?」

「ど、う言う意味よ?」


「もう一口いかがですか?ってことだよ。」

 そう言いながら悪戯な笑みを浮かべる翔馬。

「い、いりませんっ!」


 これ以上熱が上がったら、たまったもんじゃないわ。




 足りない糖度をキスで補完
(もう。安静に眠らせて下さい!)





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