Cp.Novel

□小春日和
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手を延ばせば、届く距離。




それが、オレ等の定位置なんだ。













小春日和













漸く、冬が通り過ぎた。

硬く積もっていた雪も大分崩れ、青葉が顔を覗かせている。
今自分達の座っている芝生も既に雪が熔け、すっかり渇いていた。



「ユウ…」



隣に寝転がる悪友へ、そっと声をかけてみる。



「…ん………」



団服をシート変わりに身体の下へ敷き、ラフな格好で眠りに専念していた彼。
神田が、ゆっくりと目を開けた。

暫く視線が宙を泳ぎ、はたと合う。
低血圧気味の彼の、ラビは、この雰囲気が好きだった。



「なんだ、寝てるかと思った」

「…寝てた」



横目で睨む彼のそれは、…確かに赤い。



「…どれくらい経ったんだ?」

「そーんな寝てないよ。三十分くらいかなぁ…」

「三十分…」



呟き、起き上がろうとした神田を、ラビは軽く押し戻す。
当然ながら、睨みが返って来た。



「………だよ」

「まだ寝てて大丈夫だからさ」

「……ふん」



にこっと微笑めば、訝しげな眼をするものの、大人しく肩の力を抜く。
さらさらと零れる髪に何となく惹かれ弄べば、想像を裏切らない質感で。



「…楽しいか?」

「それなりに」

「俺は欝陶しい」

「んな邪険にすんなってさ」



相手の行動が面白くて、意味も無くずっと触れていた。
ふわりと、柔らかい風が頬を撫でる。



「暖かいねぇ」

「春だからな…」



立ち上がり、伸びをする。
ぱきぱきと骨が小気味良い音を立てた。
振り返れば、まだ熔けていない雪がたくさん積もっていて。
さらに、目を閉じ再び寝付こうとする神田が、そこにいて。



「……ユウ」

「…なん…」










ばふっ









「冷たッ…あ、てめっ、この野郎!」



顔面に、雪玉が命中した。
心臓に悪い不意の襲撃に、がばりと身を起こす神田。



「まてこのっ…!」

「やーい」



2発目からは、やはり当たらない。



獅子は、兎を狩るのにも全力を出すという。

そのうちに、捕まったラビが参ったと声をあげた。



「痛いってユウ、マジ、勘弁!」

「この馬鹿ウサギ」

「その言い方やめようよ〜」



頭に殴打の余韻が響く。

患部を押さえて睨んでも、神田はふいとそっぽを向いた。



「今ので細胞一億は減ったってェの」

「さっきので俺はお前に対しての信用を失った」

「…御免ナサイ」



脱力。
ユウには勝てない。


ばたりと倒れれば、すぐ傍にそんなに大きくはないが、湖があって。
手を伸ばして水に浸せば、火照った身体に丁度良い。

身を起こして、神田の手を取った。



「…お前、まさか……」

「気持ちイイよー」

「やめッ……」












ざばー













春先の水は冷たいんだーと叫んだ神田の悲鳴は、ラビには届かなかった。










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