短編集

□蝉時雨
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蝉時雨が激しくて、一夏に区切りがついたなんてとても思えない中。
顎肘ついて外を見ていた。

「何見てるの?」
通りかかったシャルが声かけてくる。

「いや…。蝉が煩せぇな、と思ってな。」
暑さが増した気がしてイライラする、と。
視線を反らさず言葉を返すと。

「あいつら一週間の命だからね。生きてる狼煙をあげるのに必死なんだろ。」
放っといてやりなよ、とにこやかな笑いを置いて去って行くシャル。


生きてる狼煙…ってか。


巧い事例えたシャルに舌を巻く。

暗い穴蔵で何年も過ごして、外界での短い一生。
太く生きる為に目立つようあげられる狼煙。

俺は俄に自分と重ねてしまい、笑いをもらした。

流星街のゴミ溜めで何年も過ごし、外界に出てきて派手に活動している俺等。

別に生き急いでるつもりはないが、妙な親近感が蝉に沸いて。

そしたらさっきまで顔をしかめるだけだった蝉時雨にも愛着が持てた。

煙草をくわえ火をつける。

さっきまではただ煩いだけだった蝉に、頑張れよと心の中で思いながら。

吐き出した煙が、眩しいくらいの青空にゆっくりと棚引いて行った。


もう、夏が終わる。


一日でも長く生きればいいな、と柄にもなく思ってやったのは。

暑さに酔ったせいかもしれない…。


080901

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