BM小説
□狂おしいほど愛してる
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「どうしてっっ!だって、二人には手を出さないってっっ」
藤丸とJから3mも離れていない位置に体を横たえて倒れ浅い息を繰り返す音弥
今すぐにでも駆け寄りたいのに、抱きしめたいのにJによって付けられた手錠から延びた鎖がじゃらじゃら音をたてるだけでそれを許してくれない
今はまだ呼吸をしている
でも1時間後は??
10分後は??
それほど酷い出血が音弥の体の周りに広がっていた
3人しかいないこの部屋には音弥の呼吸の音と藤丸の彼の名を呼ぶ涙に濡れた声だけが響いている
目の前に広がっている信じられないような異常な空間に藤丸は気が狂いそうだ
「いやだ、音弥…おと…や……」
藤丸は手錠が手首に擦れて血が滲むこともいとわず彼へと手をのばす
届かないと知っているだろうに、それでもやめる気配はない
その行動がどれだけJをいらつかせているか音弥しか見えていない今の冷静さを失った彼にはわからないのだろう
「どうして、どうして……」
何度も同じ言葉を繰り返し、涙を流す
その姿を見つめながらJは彼が手を伸ばした先にいる彼に氷のような鋭い視線を投げかけるのだった
「ねぇ藤丸。彼が助かる道が一つだけあるんだよ」
縋るようにその涙で濡れた瞳で見つめてきた藤丸
Jの口元には優しい笑みが浮かんでいる。しかしその目は全く笑っていない
「俺……何でもするから、どこにでも…ハッキングするから………お願いだ、音弥を…助けて…くれ……」
そういった藤丸があまりにも予想どうりでJは声を上げて笑い出しそうになった
人間はなんておろかなんだろう、愛する者を前にしてこんなにも簡単に網に引っかかってしまうなんて
「そう……、だったら僕のいうこと聞いてくれる??そうしたら彼を治療してあげるし、みんなの元に返してあげる。君の妹にも今後手をださないよ」
「!!わかったっっ!!だから早く……!!」
「僕のものになって」
「……えっ??」
「だから、僕のものになって」
ひどく楽しそうに、笑いながら言うJに藤丸の時が止まる
今聞いた言葉が理解できなくて
「ぼく……のもの??」
「そうだよ、これからさきずっと僕の隣にいて。そうしたら二度と彼らには手をださない。だから…」
赤子にでも教え込むように優しくゆっくりとその言葉を、毒を今一度繰り返すのだった
「僕のものになって」
「そんっ…なっっ!!」
Jの言った意味が理解できないほど藤丸は子供ではないわけで、理解した瞬間驚愕に顔をゆがめるのだった
「藤丸。君の選択肢はイエスかノーだけだよ。まぁノーだった場合は彼は死んじゃうけどね」
くすくす笑いながら言われた言葉に藤丸の背筋が凍った。音弥が危険な状態だってことは医療に素人な彼にだってはっきりとわかる
思い出すのは二人で過ごしてきた時間
(このままあいつを死なせてしまうぐらいなら……)
「どうするの藤丸くん??早くしないと愛しの彼は死んじゃうよ」
(俺はなんだってできる)
たとえ彼がそれを許してくれなかったとしても
「もう彼が撃たれてから5分はたっちゃったよ」
(どんな手を使ってでも、おまえを助ける)
「…だ」
「なに??聞こえないよ??」
「お前のものになってやるよ、J」
まっすぐ交わった視線
決意を決めた彼の目にはもう涙はなかった
(ムカつくんだよね、その表情。君の彼への思いを早く粉々に砕いてしまいたい)
狂おしいほど愛してる