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□不幸の先には幸せが *山獄
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顔を見ていられなくなり顔を伏せるが、勇気を出して恐る恐る様子を伺えば、意外にもまた顔を笑顔にさせていた。

(絶対引いてると思ったのに。)

そしてまたもや、山本さんは俺を覗き込み、楽しそうに歯を見せて笑った。


「ははっ、獄寺さんおもしれーのな!」


そう言って、何故か大爆笑し始めた。




(…わけわかんねー…。

……まぁ、もう着飾る必要もねーか。)




初対面だった事や助けて貰った事もあり多少抑えてはいたが、山本さんには抑える必要はないようだ。

自分の中で踏ん切りをつけ、いつまでも笑い続けている山本さんを止めにかかる。


「…おい…、………おいっ!いつまで笑ってんだよ!」

「あ、わりぃわりぃ!」

「……たくっ…」


段々と苛々してきた俺はポケットから煙草を取り出し、火を付けようとした。

が、山本さんがその煙草をひょいっと奪った事で、俺の苛々は更に増すばかり。


「おいっ…」

「まぁまぁ。体にわりーだろ?」


そう優しい笑みで言うと、煙草を俺のポケットに捩込んだ。


山本さんなりの優しさを素直に受け止めれば良いものを、俺は明らかに苛々した顔を見せつけた。
そんな俺を見てもう一度わりぃ、と囁くと薄く笑みを零し俺の頭をポンッと叩く。
そんな仕草にも癇が触り、彼に反抗するかのようにそっぽを向くが、すぐに目の前の気配が無くなった。


顔を前へと向けると、山本さんはあっさりと俺に背を向けてしまっていた。



(もしかして…こんな俺に呆れたのか…?)




「じゃあなー!」

そう言って早々に歩いて行ってしまう山本さんに、俺は自分の中で葛藤を繰り広げた後、彼の背中が小さくなりかけた所でようやく思いの内を叫ぼうとした。


「…や、山本さんッ!連絡先、」


そう言おうとした所で、まるでその言葉を待っていたかのような笑みを浮かべ振り向いた山本さんは、自らのポケットをパンパンと叩いてみせた。


(ポケット?)


不思議に思い自分のポケットに手を入れてみると、さっき山本さんに捩込まれ少し歪んだ煙草と一緒に、小さな紙切れが出てきた。
その畳まれた紙切れを開くと、山本武という名と携帯の電話番号とアドレスが書かれていた。




「今日仕事終わったら連絡くれなー!」

そう言った山本さんは手をプラプラさせながら、軽い足取りで曲がり角を曲がって行った。



呆気にとられている俺は、小さく呟く。










「…………バカかあいつ」




そう言った俺は、何故か微笑んでいた。














久々の山獄。いつか続きが書きたい。

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