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□不幸の先には幸せが *山獄
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蝉が鳴り響き、カンカンと日が照っている、まさに、真夏の真っ只中。
そんな暑い日にいつものように仕事に出勤している俺は、相変わらずの満員電車に苛立っていた。

駅に着く度に空いたと思えば、またギュウギュウと乗客が押し入ってくる。

しかも人が群れるせいで冷房の効き目は全くなく、蒸れた車内。



そんな電車に揺られながらようやく次の駅に着いた。
開いたドアから流れ込んでくる人込みに耐えようと、最初は電車の真ん中で必死に吊り革を握っていた俺だがいつのまに奥の方へと追いやられ、電車が動き出す頃には開いていたドアの反対側のドアにへばりつく状態になってしまった。

この状態は非常にヤバい。


(このまま電車が揺れたら…っ)




そう焦りを感じ、踏ん張ろうとドアと自分との間で潰されていた手に力を込めようとした瞬間、グラッと勢いよく車体が揺れた。
カーブにでも差し掛かったのだろう。

踏ん張りがなかった俺の体はいとも簡単に人込みに突進する事になる。
…筈だったが、倒れた先にあったのは人込みではなく大きな胸で。
その胸に見事に突進してしまった俺は、更に揺れる車体に耐えようとその胸に抱き着く形になってしまった。


少ししてようやく揺れが落ち着き、恐る恐る大きな胸の持ち主を見ようと顔を上げた先には、想像していたむさいおっさんの顔はなく、ニコリと爽やかな笑みがあった。


「大丈夫っスか?」

そう気遣ってくれた彼は、俺の肩から手を離して顔を覗き込んできた。

(いつのまに支えてくれたのか?)



「あっ……はい、すんません…、」

俺と同じようなスーツを身に纏った彼はそんな気にしなくて良いっスよ、と安心させるような優しい声で答えてくれた。


そこで、異常に体が密着している事に気付いたが、人が群れ過ぎていて体を動かす事が出来そうにない。
男に抱き着かれて嫌な思いをしてるんじゃないかと様子を伺えば、

「このままでも平気ですから」

と紳士に許してくれた。


俺もこの状態に嫌気がさす訳ではないが、さすがに周りの目が気になる。
もう一度すんません、と言い動く事を諦め、しばらく沈黙が出来る。




ガヤガヤとざわめく車内で、そっと耳元に彼が話しかけてきた。

「今日も相変わらず凄いっスね」

苦笑いを浮かべた彼もいつもこの時間に電車を利用しているらしい。

そっスね、と同じく苦笑いを浮かべた所で、ザワッと鳥肌が立った。
尻に手の感触。

「ッ……!?」



つい当たってしまったなんてもんじゃない。
いやらしく動く掌。痴漢だ。


サワサワと俺の尻の形を確かめるかのように動く掌は、明らかに男の手。

俺の尻を女の尻と間違えてる馬鹿野郎がどんな奴か確かめようとしても、体が動かないんだからどうしようもない。


こんな人込みの中、身じろぐ訳にもいかずただ耐えるしかない。

そう心に決めて尻に力を込めたが、尻の割れ目から何の躊躇いもなく陰部にまでも手を伸ばしてきた。


(コイツ…男とわかっててやってんのかよ!?)


男と分かれば諦めるかと思っていたが、その様子は微塵もない。

次第に大胆にまさぐってくる手に、不覚にも少し感じてしまっている俺がいた。
気持ち悪い筈なのに、体が反応してしまう。

「はっ………」


しまいには体が震えて涙が潤んでしまう始末で、どうしようもなくなった俺は無意識に目の前の彼にしがみつく。

その時、俺はようやく彼の存在を思い出した。



そっと見上げてみると、さずかに震える俺に気付いていたのか心配そうに俺を眺めていた。
目が合い、少し首を傾げてどうしたって顔で見つめてきた。


(助けを求めたい。
でも、情けねぇ…!)


男の意地なんだろうか、プライドなんだろうか。

俺はなんでもないって顔で笑顔を返した。
自分自身の力で、何がなんでも止めさせてやる…!


そう決意した俺は狭い人込みの中、抵抗しようと手を後ろに回そうとした。




その瞬間、指が禁断の場所へと這う。

服の上から、窪み一点に狙いを定めて。




「ッ………!!!」


ビクリと跳ねる体。
未知の領域に堂々と踏み入られる。





(やめろやめろやめろ)











そんな時――、


「ぐああぁっ!」

酷い呻き声と共に、俺は解放された。



突然の事にざわめく人込みの中、そっと後ろを見れば、汗をしきりに浮かべたキモいおっさんが顔をクシャクシャにして呻いていた。
そのおっさんの腕をギィと音が鳴る程締め上げていたのは、目の前にいた彼だった。



「おっさん、あんた何してるか分かってんの?痴漢だよ痴漢、犯罪」

俺が見た爽やかスマイルとは打って変わって、怒気に満ちた顔。
思わす俺までゾクリと身の毛がよだつ。






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