*空の彼方*
□一章
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「うーん,強く頭を打ったのかな。記憶が抜け落ちちゃってるんだろう」
「あー,そうなんですか」
そうなんですかって君,自分のことなのにエラく余裕で…
帰ってこられた新野先生もどうしたものかと困った顔をしていらっしゃる。
「とりあえず,鈴城くん。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「覚えている範囲内でなら答えます」
全部抜け落ちちゃってるのにそれはないだろう。
「…そういえば,善法寺くん。四年のトイレの落とし紙がなくなっていたのだが…」
「え,はい。すぐに補充に行ってきます」
僕が補充から帰ってくると,新野先生はおらず,彩くんがいるだけだった。
「あ,善法寺くん。先生が『善法寺が帰ってきたら一緒に額延長戦制の部屋に向かうように』って…」
「どんな誤変換?」
どういうぶっ壊れ方をしてるの,この子の頭は。
それはともかく,彼に手を貸して学園長室まで連れて行った。
学園長先生は
「おぉ,新野先生から話は聞いているぞ」
と部屋に通してくださった。
「戦制…あ,間違った…先生,彼は記憶喪失みたいなんですけど,どうしたらいいでしょうか」
「そのことなんじゃが,六年生に編入してみたらどうかの」
「…それは僕にとっちゃすごく都合がいいですけれど,今,無一文ですよ?チ●ルチョコも買えませんよ?」
「それに基礎知識もないじゃないですか。タカ丸くんだって四年生に編入しましたよ」
「それがな,鈴城くんは記憶を無くしたと言っておるが,なくす前は忍者であったのではないかとわしは思っておる」
「え?」
「??」
「筋肉のつき方が違うんじゃ。無駄に鍛え上げているわけではなく,綺麗についとるんじゃ。
それにな…」
そう言って学園長先生は立ち上がると,いきなり障子を開けた。
すると…
「ゲッ!!」
「うぉっ!!」
「イデッ!!」
食満と文次郎と小平太が凄い勢いでなだれ込んできた。
後ろに立っている仙蔵と長次は呆れたようにそれを眺めている。
…いや,長次はどうだろう…
「…っちょっと待ってみんな!!なんでここにいるの!!」
「怪我人が運ばれた,と噂が持ちきりでな。見に来たわけだ」
仙蔵があっさりと言った。
「鈴城くん,君はこの気配に気づいておっただろう?さっきからちらちらと見ていたからな。
忍者の素質は十分じゃ。
六年生も楽しみにしとるようだし,入学してみたらどうじゃ?」
「……………」
彩くんは少し考えたあと,
「じゃぁ,これからよろしくお願いします」
と言った。
鈴城彩,ひょんなことから忍術学園でお世話になることになりました。
みんな優しい人でいっぱいです。
六年生の皆さんとも仲良くなれるといいなと思います。
これから僕はどうやって生きていくのでしょう。
辛いこともたくさんあると思いますが,頑張りたいです。
****年*月**日
第一幕、終.