*忍たま 短編 Novel*
□兎は月に恋をする
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あなたはさっきから何も話しません。
下級生も眠ってしまいました。
背を向けているあなたの顔は、私には見えません。
けれど、私にはよく分かります。
あなたは目を細め、優しげな顔で月を見ていることでしょう。
ほら。
「…本当に、綺麗だなぁ…」
また、あの人のことを考えているのでしょう?
確かに私は、あの人に何もかもが敵いません。
あのひとはあなたと同じ学年だし、忍術だって何段も上をいっている。
そして美しい。
私も認めてしまうほど。
サラストランキングだって、私は、勝てない。
私はこんなに、こんなにもあなたを想っているのに、あなたは振り向かない。
ずっとずっと、あの人だけを見つめ続ける。
まるで、月に憧れる兎のように。
「滝夜叉丸、見てみろよ。
こんな綺麗なのに勿体無いぜ」
私に寄りかかって寝ていた金吾が、何かに驚いて目を覚ましました。
原因は、空から落ちてくる雫。
あなたは残念そうな声を上げます。
金吾がそっと、私の頬に触れました。
嗚呼。
雲よ、あの人を覆い隠しておくれ。これ以上弱味を見せることなど出来やしないから
あなたは跳ねて跳ねて、拒まれても跳ね続けて
いつの日か月へと行ってしまうのでしょう
→あとがき