*中編*
□静雄君といざやくん
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矢霧波江が突然オレのアパートに来た。
「………何の用だ?」
「別に用は無いんだけど渡さなきゃいけないものがあって」
「……手前確かノミ虫の助手だったよな…絶対受け取らねェぞ」
「折原からじゃないわ。この子よ」
矢霧の声を聞いて階段の方から顔を覗かせたのは……ガキ?
「……は?」
「何が何だか良く分かんないけど折原が子供になっちゃったのよ私はこの間に誠二の様子見に行かなきゃいけないしぶっちゃけ誠二の子供以外いらないしこんなんになっちゃったのも貴方のせいだと思うから元に戻るまで面倒見てねヨロシク!!」
そう一気に捲し立てると矢霧は物凄い勢いで階段を駆け降りて行き、留めていたタクシーに乗ってどこかに去って行った。
「…………ちょ、ちょ、待てぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
静雄君といざやくん
一応追いかけたが、大分先へ行っていたので見失ってしまった。何なんだあの女は。
アパートに戻ると、矢霧曰く臨也がドアの前で座っていた。
「おい、手前」
脅かすつもりはなかったが、子供の肩がビクリと跳ねる。
黒髪がサラリと揺れて、怯えた赤目がコチラを向いた。
「名前は何て言うんだ」
舌打ちしたいのを堪え、自分が出せる最上級の優しめの声で聞くと、「……おりはら、いざや」と返事が返ってきた。
「歳は?」
「…5さい」
「オレのこと知ってるか?」
ふるふると頭を振るので、オレは一つの結論に辿り着いた。
コレは新手の嫌がらせか。
嫌がらせだな。
ていうか人がいきなり子供になるとかあ り え ね ェ。
「正直に言えよ。お前、折原臨也に何か頼まれたのか?」
そうに違いない。
が、子供は
「…ぼくが…いざやだもん!!だれかにたのまれたんじゃないもん…!!」
いきなり泣き出した。
「な…何で泣くんだ」
「…だって…なみえおねえさんも…おんなじこというから……」
「………」
「……っつ――あ――…ごめん悪かった。お前が臨也なんだな?」
ポロポロ泣きながら、うん、と頷いている。
「…こんななまえのひとほかにはいないもん」
コンプレックスでもあるのか、俯きながらゴニョゴニョと言っているので
「…オレは良い名前だと思うぜ。だから男が簡単に泣くな」
「……うん…」
いざ…うざやよりはよっぽど可愛いげがあるじゃねーか。
しかし同姓同名は…ないな。
なら本当にあの臨也が小さくなったってのか?んな馬鹿な。
…まぁセルティみたいな変な奴もいるが…な…
どうしたものかと玄関の前で考えていると、カンカンと階段を上がってくる音がしてこのアパートの大家が姿を見せた。
自分で言うのもアレだが、オレはこのアパートでは揉め事を起こしていない。
だから他の住民も意外と声をかけてくる。50を過ぎた詮索好きの大家のオバハンなんかは特に。
そのオバハンは突っ立っているオレと臨也を見て驚きつつも隣の自分部屋に入っていく。
が、好奇心には勝てなかったらしく、すぐに部屋から顔を出した。
「その子…平和島さんの子供?」
「…………は?」
「まぁまぁまぁまぁまぁ!!そうなの!!」
確実に何かを勘違いしたオバハンはまぁを連発した。
「あら、お母さんは?ま、平和島さんたら隅に置けないわねぇ。とりあえず自分で蒔いた種は自分で育てなさいな。それにしても可愛い子ね」
「ちょちょちょちょ待っ」「何か分からない事があったら聞いてちょうだい。これでも私、三人育て上げたんだから!!平和島さん、初めてでしょうから大変だけど頑張りなさい」
「いや、オレの子供じゃな「あら、今更否定する気?この子だって貴方に懐いてるじゃない」…」
下を見ると、服を引っ張った臨也が無邪気そうな笑顔で言った。
「よろしく、パパ」
確かにコイツは臨也だと思った。
(ボク、お名前は何ていうの?)(おりはらいざやです。よろしくおねがいします)(あらまあ礼儀正しい子ねぇ)(……………)(あらどうしたの平和島さん。黙っちゃって)(いや……)(これからは平和島いざやかしら。それにしてもいざやなんて変わった名前ね。お母さんギャルなの?)(ちょ、マジ大家さん止めてください)