03/16の日記

20:31
Scene5 勇気
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女性陣に食堂を占領されてしまった為

男性陣は各自、外に出て夕食を済ませた。






「あー…やっぱ、了平ん家に邪魔すべきだったな、コラ…」




店の飯が口に合わなかったのか、コロネロは眉間に皺を寄せながら、自室に戻る。




「……ん?」




すると、コロネロの部屋のドアの前で、膝を抱え座り込んでる人影が目に入る。




「……ラル…?」
「っ!?」




コロネロの呼び掛けに、顔を上げたラルは、コロネロの姿を確認すると


逃げる様にコロネロが居る方とは逆方向に一目散に走り出し

突き当たりの壁を曲がって行ってしまい、その姿は見えなくなる。



だが、その長く黒い尻尾は壁の陰から伸びているので

ラルはまだ、そこに居ると言う事は確認出来た。




「ラル?居るんだろ?俺はこれ以上近づかねーから、顔だけ出してくれねーか、コラ?」




コロネロは、出来るだけラルを恐がらせない様、優しく問い掛ける。




「俺に、用が有ったんだろ、コラ?」
「……………」




暫くの間の後、ラルは恐る恐ると顔を覗かせる。




「どうしたんだ、コラ?」
「…あ、の……オレ…」
「ん?」




かなり小さな声だったが、ラルが自分に言葉を発してくれた事が嬉しかったコロネロは

笑顔で、ラルの次の言葉を待つ。




「……手…」
「手?」
「……引っ、掻いちゃいた…から……血…出てて………痛かった…よな?」
「ラル…」
「……ゴメン…な、さい……」




ラルは、まるで自分が怪我をしたかの様な表情で

今にも、泣き出してしまいそうだ。




「大丈夫だって!あんなの全然、痛くも痒くもねーぞ、コラ!!」




そんなラルを安心させてやろうと、コロネロは笑顔を見せながら、大きく手を振る。




「……本当に…?」
「本当だって!……だからラルも、もう気にするなよ、コラ?」
「……ありが、とう…」




ラルは一瞬……ほんの一瞬だけ、小さく微笑んだが

すぐに、顔を引っ込めてしまった。




「ラル!また明日な、コラ!!」




ラルが、再び顔を出す事は無かったが

長い尻尾が、挨拶代わりに揺れた様に、コロネロは思えた。








ラルの気配が、完全に遠ざかったのを確認し

コロネロは、自分の部屋に入り、その場に座り込む。




「……バカ…ヤ、ロ…が……」




ラルは、手を引っ掻いてしまった事を、コロネロに謝罪する為に

部屋の前で、ずっとコロネロの帰りを待って居た。



それは、ごく普通で当たり前の事かもしれないが

ラルには、物凄く勇気の要る事だっただろう。




「こんなの…直ぐに、消えて無くなるのに…」




コロネロの、手の甲の引っ掻き傷の痕の上に、ポタポタと数滴の雫が零れ落ちる。




「……自分の傷は、一生消えないのに……」




人間の全部が全部を『悪』と決め付け、憎んでも可笑しく無い程の、酷い仕打ちをされたのに


そうはしないのは




「何、他人を気遣かったりしてんだよ……」




ラルが、優しい心の持ち主だから。



誰よりも痛みを知るラルだからこそ、他人の傷に敏感になるのだろう。




「…ふぅ……」




コロネロは、ゆっくり大きくと息を吐き出すと

涙を拭い、両手で思い切り頬を叩く。




「……うし!」




ラルの事を本当に想うのなら、今、自分がするべき事は


彼女の過去を思い、涙するのでは無く

彼女が、一日でも早く皆に馴染める様に、笑顔で要る事だ。



想いを伝えれば、ラルはちゃんと応えてくれる。


笑顔を見せれば、ラルも笑顔を見せてくれる。




互いに、笑顔を見せ合う事が出来る様になったら



それはもう、立派な仲間となった証なのだから。







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