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昼食を食べ終えて時間が空いてしまった昼休み。私は屋上で一人、綺麗にラッンピングされた袋を見つめ眉を寄せる。今日は、家庭の授業があって調理実習を行った。作ったのは、紅茶を使ったクッキー。だけど残念な事に私の班は砂糖の分量を間違えて失敗。紅茶の風味もほとんどない。あまりにも甘くなってしまったため誰も食べることが出来ずじゃんけんで負けた私が班員五人分の紅茶クッキーを全て持って帰ることになった。甘い物は嫌いじゃないけど、甘すぎるとさすがに気分が悪くなってしまうため、完食は不可能。家に帰ったら家族を騙して食べさせるしか消費の方法はないだろう。そう考えながらクッキーの袋を片手にゴロンと寝転ぶ。もし、このクッキーが上手く作れたら丸井君にあげようかな、なんて思っていた。先日、思わぬ出来事で丸井君と初のコンタクトを取る事が出来た私。丸井君の記憶の中に「クラスメートの女子」というくらいの印象は残っただろうし、家庭の授業でクッキーを作ったという事は丸井君も分かるから別に不審には思わないだろうと思ったから。しかし、いくら甘い物が好きな丸井君でもこの甘すぎるクッキーは食べられないだろう。しかもよく考えたら彼は女子にモテるのだからクッキーはたくさんもらっているはず。それに、丸井君自身でも作っているから私があげてもきっと迷惑になるだけ。もしかしたら逆にこれで良かったのかもしれない。そんな風に思いながら少しでもクッキーを消費しようと袋の口を結んであるリボンを解く。
「鈴原。」
「うわぁっ!?」
突然後ろから声を掛けられ思わず声を上げると、後ろに振り向く。
「ま、丸井君…。」
そこにいたのは、私の想い人。丸井ブン太君。突然声を掛けてきた丸井君だが、私が大きい声を上げたため彼自身も驚いているようだ。そして、すぐに申し訳なさそうに眉を寄せる。
「あー…なんかわりぃ。」
「あ!べ、別に平気だよっ?ちょっとびっくりしただけだしっ。」
丸井君のこんな顔は見たくないから、私は必死に手を振り気にしてない、というアピールをした。すると、安心したような様子でいつもの感じに戻る丸井君。
「そうか?ならいいけどよ。」
「う、うん。」
と、そこで会話が終了する。元々、話したことがないからどんな話題を出していいのかも分からないし、なんとなく気まずい。いつもは私が一方的に見てただけだし。そう思っていると丸井君が口を開く。
「なぁ、それくれよ。」
「へ?」
丸井君が指したのは、たった今リボンを外して食べようとしていた失敗作のクッキー。丸井君はイケメンということでも有名だけど、大食いで甘党ということでも有名だ。きっとお昼ご飯が足りなかったんだろう。あげたいのは山々だが、これはあげられない。
「あ、えっと…これは…ちょっと失敗しちゃったやつだから…。」
ちょっと、ではないが。いくら甘党の丸井君でもこれは気分が悪くなってしまう。しかし、私の返答が不満だったのか不機嫌そうに眉を寄せた。お、怒らせてしまった…?
「そうか。お前全部一人で食いてぇから嘘ついてんな。」
え。
「え、えぇ?」
丸井君のまさかの返しに思わず間抜けな声を出してしまった。でも、少し冷静に考えよう。丸井君はきっと、女子が食べ物をくれない事を経験した事がないんだ。私だってあげられるものを持っていたらなんだってあげるだろうし。でも、今持っているのをあげられないのは事実。自分の想い人に失敗したものをあげたい女なんていないはず。
「いや、本当に失敗したやつで…。」
「失敗かどうかは俺が食ってから決めてやるぜぃ。」
そう言うと丸井君は、素早い動きで私の手からクッキーを奪った。
「ちょ、丸井君っ!」
「いっただっきまーす。」
袋からクッキーを一枚取り出して口にしてしまった丸井君。あぁ、最悪だ。きっと料理が出来ない女だと思われた。私が視線を地面に落とすと、信じられない言葉が耳に入ってくる。
「美味いじゃんっ。」
嬉しそうな丸井君の声にぱっと顔を上げれば、満面の笑みでクッキーを食べている姿が目に入った。
「嘘…だって、あんなに甘いクッキー…。」
「は?普通のよりは甘いけど、超美味いぜ?」
私は丸井君の甘党を甘く見ていたようです。何はともあれ、丸井君はクッキーを気に入ってくれたみたいだし…結果オーライ。
「ん、でもまじで美味いな。これは他のやつにやりたくねぇ気持ち分かるぜ。」
そう言われて私は目を見開く。私は丸井君にあげたくなかったわけではないんだ。
「あ、あのっ、丸井く、」
「ほら。」
私の言葉を遮って丸井君がクッキーの入った袋を投げてきた。なんとかキャッチすれば、先程より中身が減っているのが分かった。再び丸井君を見ると、クッキーを摘んでいる手の反対側の手にクッキーが乗っている。私がハテナを浮かべていると丸井君が歯を見せてニッと笑った。
半分くれてもいいぜ
END
(私の想い人は)
(かなり甘党で)
(ちゃっかりしてる)
あとがき
前回は長くなったんですが今回は1ページで収まりました(*´∀`*)
次回からも長くならないように気を付けます、はい。
そして思ったんですが…これは調子がいい彼というお題に沿えてるんですかね?
ちょっと複雑な鈴原でした。
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