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待ち合わせ場所である駅前の噴水の前に着いたのは、待ち合わせ時間の30分前。落ち着かない様子でポーチから鏡を取り出せば、自宅で何度も直して確認した前髪を再度確認。そして、近くの喫茶店の窓に写る自分を見てお気に入りである白のワンピースがおかしくないか確認。準備は出来た。あとは彼が来るのを待つのみ。

休日の昼間に誰と待ち合わせているのかというと、私の想い人である丸井ブン太。今月だけ図書室の当番をやっている彼とは、今までろくに話したことも無かったのだが、幸運が続き(少し)仲良くなれた(はず)なので、最近は毎日図書室へと足を運び、彼の(暇つぶしの)話し相手になっている。そして、先日ふと出た話題が、

「なぁ、どっか美味いケーキ屋知らねぇ?」

「あ、それならケーキ屋じゃないけど駅の近くにケーキが美味しいデザートバイキングがあるよ。」

私が心当たりを言えば、彼は目を見開き興奮した様子で立ち上がった。

「ほんとか!?じゃあ今度連れてってくれよぃっ!」

そして、うっかり約束してしまったのだ。まさかあの丸井君とデザートバイキングに行く日が来るなんて夢にも思っていなかった(というのは嘘で妄想はしてた)。それに…男女が休日に二人で出掛けるというと、なんだかデートっぽいと勘違いしてしまう。丸井君はただ美味しいケーキを食べたいだけでそんな気はないのになにを考えているのか。しかし、妄想するだけならタダなので待ってる間はそうして気持ちを落ち着かせることにした。

そして、待ち合わせ時間の3分前。駅の方から歩いてくる派手な赤い髪は間違いなく丸井君だろう。彼の私服を見れるのはこれが最初で最後になるだろうからしっかり焼き付けておこう。そんな事を考えていれば、彼が私に気付いたようで小走りでやってきた。

「わりぃ。待ったか?」

「ううん。そんなに待ってないよ。」

あ、なにこの王道デート台詞。少しときめきを覚えつつ丸井君の服装を見る。チェックのシャツに黒のチョッキを合わせて下には明るい青のジーンズ。帽子も被っていて、おしゃれさんだ。

「鈴原って私服だと雰囲気変わるな。」

「え、そう?」

服装チェックをしていた自分だけではないらしい。なんだか恥ずかしい。

「あぁ、可愛いぜぃ。」

「へっ!?」

不意打ちで放たれた丸井君の言葉に声が裏返ってしまった。冷静に考えよう。きっと語尾に「服が。」が入っているはずだ。

「う、うんっ。お気に入りのワンピースなんだっ。」

「ん?あぁ、服も可愛いぜぃ。」

服も、という言葉に違和感を覚えるが触れずにいようと思う。

「丸井君も、その…格好いいよ!」

「んー、知ってる。」

俺様ナルシストが言えば偉そうに聞こえるであろうこの返しもわざとらしく丸井君だと、思わず笑みが零れる。

「ふふ…じゃあ行こうか。」

「待ってましたぁ!行こうぜぃ!」

私が歩きだそうとすると彼は明るい声でそう言い、私の手を取った。

「!ま、まま丸井君…!」

「ん?どうかしたか?」

私は突然のことに戸惑いながら丸井君に声をかけるが、なにもおかしいことはない、そう言うようにキョトンとした顔でこちらを見る丸井君に、何も言えなかった。手汗は平気か、爪は大丈夫か、手に怪我とかしてなかったか、一気に不安が押し寄せてきたが丸井君の上機嫌な横顔を見ていたら段々と落ち着いてくる。

そして、しばらく歩けば目的地に着いた。そんなに混んでいない店内にほっと安堵すれば二人席に向かい合って腰を下ろす。店員は終了時間だけ言って去っていったので、お互いさっそくデザート取り始める。まず持ってきたのは苺のミルフィーユとガトーショコラ。もっと食べたいものがあったが一気には食べられないため選出した。席に戻ると丸井君はすでに食べ始めている。

「んだよ、時間かけたわりにちょっとしか持ってきてねぇな。」

「悩んでただけだよ。それに、こういうのはちょっとずつ持ってくるのがいいんだよ。」

「いちいち立つのめんどいだろぃ。」

そう言ってショートケーキの苺を口に入れる丸井君の前にはたくさんのケーキがずらりと並んでいる。その中に、ギリギリまで悩んだレアチーズケーキを発見。やっぱり美味しそうだ。次は絶対これを取ってこよう。そう思いながら丸井君のレアチーズケーキをじっと見ていると私の視線に気付いた丸井君が、何を思ったのかレアチーズケーキの端の一口分をフォークで刺して私の口元に持ってきた。

「んな顔しなくても欲しかったら一口やるよぃ。ほら。」

「は、…え?」

あーん、と言いながらフォークを差し出す丸井君に私は顔を真っ赤に染めた。こんなの、本当にデートみたいじゃないか。ていうかファンクラブとかに見られたら殺される。いや、こうして会ってるだけで処刑に値するのだろうが。とにかく、女の子の夢である「あーん。」だが、私には無理だ。

「いっ、いいい、いや、あ、あとで自分で取りに行くからっ。」

「遠慮すんなって。」

全力で遠慮します。

しかし、そう言っても引いてくれなさそうだ。というか、丸井君はもしかして女の子には誰にでもこうなのだろうか。じゃなきゃ、普通すぎる私なんかにこんなこ、こここ恋人みたいなこと、…しないと、思う。






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