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「ねぇ、どうしたらいい?」
「そんなの知らないCー。」
「ジロちゃんの意地悪っ!」
適当に返事を返す唯一の男友達であるジロちゃんに、私はジロちゃんの額を指で弾いた。痛いよー、なんていつものほわほわした口調で返してくるジロちゃんをシカトすれば重いため息をつく。
ここはジロちゃんこと、芥川慈郎がよく行くテニスコート。氷帝学園のテニス部員である彼はかなりの実力の持ち主だ。そして、私の想い人である丸井ブン太をとても尊敬している。なので、私はジロちゃんに、ブン太君を好きな事を打ち明けた。しかし、よく考えたら彼がまともな解答をくれるはずがなかったのだ。四六時中睡眠をとっているジロちゃんは常に眠そうで、強い相手とテニスをするときと、ブン太君に会うときだけは気分が高まっている。
「ていうかさー、沙柚希に丸井君はもったいないと思うよー。」
ぐさり、と刺さったその言葉に思わず言葉を失う。確かにそうだ。平々凡々な私に、アイドルみたいなブン太君は釣り合わない。それは自分でもいつも思っている。しかし、私は手作りのお菓子を渡したし(失敗作だが)、名前で呼び合ってるし(おそらくブン太君の気まぐれだが)、デートもした(結局デザートバイキングに行っただけで終わったが)。考えれば考えるほどネガティブになりそうだが、気にしない。とにかく、最近は良い感じだった。もしかしたら努力次第でどうにかなるかもしれない。最近はそう思い、積極的に話しかけにも行ってる(放課後の図書室のみだが)。そんな思考を巡らせているとジロちゃんが表情を変える。
「…沙柚希のさ、そういう謙虚なとこって長所でも短所でもあると思う。」
「え…?」
突然、真面目な表情でそう言うジロちゃんに私も表情を堅くする。
「俺は、沙柚希のそういうとこ好き。」
「好、き…って…。」
面と向かって言われると恥ずかしい。頬を赤らめつつ俯こうとするが、ジロちゃんが再び口を開いた。
「沙柚希の優しいとこ好き。沙柚希のお節介なとこ好き。沙柚希のおっちょこちょいなとこ好き。沙柚希の、」
「ちょ、ちょっと待って…!いきなりなに?」
好き好き言いまくる彼に思わずストップをかけた。嬉しいには嬉しいが、恥ずくて仕方ない。しかし、そんな私に構わず続けるジロちゃん。
「沙柚希にはさ、好きになれるとこがたくさんあるんだよ。」
「好きに、なれるとこ?」
「うん、ここじゃ言い切れないくらいにたくさん。」
ジロちゃんの言葉は、まだ恥ずかしいけど今度は止めない。ジロちゃんは、なにか伝えようとしてる。
「さっき言ったけど、謙虚っていうのは必ずしも長所とは言えない。少しは自分に自信持ってよー。」
少し怒ったような表情でそう言えば、ごろんと寝転がり私の膝の上に頭を落ち着かせた。そして腕を伸ばして私の頬をそっと撫でる。
「ねぇ、沙柚希」
「うん。」
「丸井君の事、好き?」
ジロちゃんは、うん好きだよ、という言葉を求めてるんじゃない。
本気かどうか、聞きたいんだと思う。
「私、…私は…!」
丸井 SIDE
今日は少し気分が良いからちょっとだけ遠くのコートに足を運ぶ。もしかしたらジロ君がいるかもしれないから、そしたら軽く打ち合おう。そんなことを考えつつ、ふとあることを思い出す。
そういえば、沙柚希は氷帝レギュラーに仲の良い友人がいると言ってた。もしそれがジロ君なら、コートに一緒来ているかもしれない。
正直、その可能性は低いが最近は沙柚希のことばかり考えてしまう。話したこともないただのクラスメートだった彼女だけど、ちょっとしたきっかけで話すようになった。とても話しやすいし、なにより他の女子と違ってキャピキャピしていない。俺好みの菓子もくれたし、上手いデザートバイキングにも一緒に行った。好き、なのかもしれない。現段階ではなにも言えないが、少なくとも異性として気になってる。群を抜いて可愛いとかそんなんじゃないが、ふとした女の子らしい仕草などに目がいく。この気持ちをしっかり確認するために、もっと沙柚希のそばにいよう。そうすれば分かるはず。
そんなことを考えていると、目的地であるコートに到着。ジロ君いるかな、とコートを見回すと、ベンチに見知った顔が2つ。あれは、ジロ君と…沙柚希。
「…まじかよぃ…。」
まさか、本当にいるなんて思ってなかった俺は驚き目を見開く。でも、これは思わぬラッキー。せっかくだからジロ君と打ち合おう。そう思い近付こうとして、沙柚希がジロ君に膝枕をしていることに気付いた。やけに親密そうな二人に違和感を感じそっと近付くと、なにか喋っているようだ。しかし、内容までは聞き取れないため耳を澄ませると、沙柚希の声が聞こえた。
「私、…私は…!」
切羽詰まった震える声の沙柚希が放った言葉は、あまりにも衝撃的だった。
「好き…好きだよっ…大好きだよ…!」
「………!」
沙柚希が、ジロ君に、告白した。
俺はその事実を理解した瞬間、頭が真っ白になった。
そして、理解した。
あぁ、俺は沙柚希が好きなんだ。
しかし、自覚した途端に、失恋した。
俺はそのままUターンしてコートを去る。そして、少し離れた所で人気のない路地に入りズルズルと座り込んだ。その瞬間、目頭が熱くなった。なにかが零れてきそう。そう思った時には、俺の頬を涙が伝っていた。
俺の言葉に何度も顔を赤らめ、恥ずかしげに俯いていた沙柚希。
俺のなんてことない普通の話を、笑みを浮かべて聞いてくれた沙柚希。
もしかしたら、俺のことを意識してくれてるのか、そう思った事もあった。
「んだよ、…それ…。」
俺は、しばらくそこから動けず涙を流し続けた。
丸井 SIDE END
ジロちゃんにブン太君への私の思いを今度はしっかり伝えた。するとジロちゃんは体を起こして今度は私の頭を撫でる。
「そっか。丸井君のこと、大好きなんだね。」
「うんっ…うんっ…!」
私が必死に頷けば、ジロちゃんはふにゃりとした笑みで口を開く。
「じゃあさ、それ言いなよ。」
「……、…え…?」
ジロちゃんのまさかの発言に私は固まった。
偶然にしてはでき過ぎてるよな
END
(ブン太君に告白するなんて、)
(自覚してすぐ失恋するなんて、)
((考えてもなかった。))
あとがき
中途半端な終わり方すみません(^q^)
ていうかこれ全然「調子がいい彼」じゃないですよねすんまそん。
セリフもぜんっぜん関係ないですし、偶然っていうか最悪のタイミングっていうか…。
あ!そして今回、シリーズ初の試みが二点程ありました!
まず、ジロたんの登場。
ぶっちゃけ氷帝は東京で立海は神奈川なんでどういう知り合いなんだ、という疑問は生まれましたが、立海のレギュラーをここで出すのはちょっと無理だったんで丸井君大好きなジロたんを使いました。
地味に大事な役所でしたねww
そして二点目は、ブンちゃん視点です!
ちょっと微妙な感じにはなりましたが、これは最初からやりたいと思っていたので(調子がいい彼ってのに沿う気ねぇだろ、なんて言わないでください)なんかもうラストを残して感無量です。
いやいや、ちゃんと書きますけどね!
では、次回いよいよラストです!
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