時計は0時をまわり、日付が27日に変わる。

イルカ先生の涙には少し驚いたけれど、嬉し涙なら止める必要もないだろう。
我ながらキザな事をしたもんだと思わなくも無いが、イルカ先生のご両親に伝えたかった言葉は紛れも無い本心だった。

「カカシ先生…本当に、有難う御座います」
腕の中でまだ泣き止まない恋人の髪を梳きながら、抱き締める腕に力を込める。イルカ先生ってば本当に感動屋さんなんだから。
そこもまた可愛いんだけどね。

そんな事を考えていたら安堵と共に物凄い疲労感に見舞われた。身体中の力が抜けて、抱き締めていたはずのイルカ先生に抱き止められる格好になってしまった。
「あ、あれ?」
「カカシさんっどうしたんですか?!」
イルカ先生が涙目のまま悲鳴を上げる。覚えのある感覚に、思わず目を閉じた。
「あーー…すみません。ちょっとチャクラが…」
「まさかっ…アンタ、チャクラ切れですか?!」
「その様です…面目ない…」

――――

先程の愛らしいイルカ先生はどこへやら、今は悪態を吐きつつ動きの取れない俺を背負って家へと急いでいた。
「アンタ馬鹿ですかっ?!どーしてチャクラが切れるまで無理するんです!これが里外だったらどうする積りですかッ!」
「…ごめんなさい。でも多分、極度の疲労からくる一時的なものだと思うから…」
確かに無理をした自覚はある。自覚はあるがここまでとは思っていなかったのだ。それに自分としては、この後のお楽しみも予定の内だったのに。
散々怒鳴られながらイルカ先生の家に着くと、そのままベッドの上に放り投げられた。

「アンタ…まさか怪我はしてないでしょうね」
イルカ先生が俺の額宛てや手甲を外しながらギロリ、と睨んだ。さっきの涙のせいでまだ少し赤い目元に、あらぬ妄想を抱きそうになるのを必死で堪え、気にしていた事を告げる。
「怪我は全然無いんですが…あのね、イルカ先生。プレゼントまだ用意してないんです…」
思い出すと泣きそうになる。恋人になってから初めてのお誕生日だったのに。幻滅されたらどうしよう…

イルカ先生は俺の言葉に一瞬眉を顰めると、大きな溜息を一つ吐いた。

(きっ、嫌われた?!)

イルカ先生の言葉を聞くのが怖い。思わず目を硬く瞑った。
ほんの僅かな沈黙が凄く長い時間に感じる。

もう一つ小さな溜息が聞こえたかと思うと、次の瞬間温かいものに包まれる。
急いで目を開くと、すぐそこにイルカ先生の顔があった。
「本当に馬鹿ですね…プレゼントなんて、貴方が無事俺の所へ帰ってきてくれたら、それだけでいいんです」
「イルカせんせ…」
「あ、まだちゃんと言ってませんでしたね。お帰りなさい。任務、お疲れ様でした」

俺の大好きな、おひさま笑顔。

「いっ、いるかせんせぇ〜〜っ」
抱き締めたいのに腕に力が入らない。この時程自分のスタミナの無さを呪った事はないだろう。
「ぎゅうってしたいのに身体が動かないよーーっ」
「はいはい、無理しないで下さいね。自業自得です」
ぽんぽん、と子供をあやす様に頭を叩くと、少し困った様な笑顔を浮かべて「仕方がないので今夜は俺が抱いて寝てあげます」と言って俺を腕の中に抱き込んだ。

俺よりも少し高めの体温と、イルカ先生の匂い。そして、少し早い心臓の音。

いつもは俺がイルカ先生を抱き締めて寝ているけれど、たまには逆もいいかもしれない。
あまりにも幸せで涙が出そう。顔が見えなくて良かった。

「せんせ」
「はい」
「すきです」
「はい」
「すきすきだいすき。あいしてる」
「…知ってますよ」
「だめ。もっと知ってて。俺がどんだけアンタを好きか」
「…ガキ」
「てっ!」

髪を引っ張られて上を向かされると、赤い顔のイルカ先生。
「俺だってアンタの事が好きなんです。俺がどの位アンタを好きか、知ってますか?」
壮絶可愛い。
鼻血出そう。
「いる…」
ちゅうっ。
押し付けられる、柔らかい唇。
「…今日はこれで我慢して下さい。もう寝ましょう」
「あわわわっ…なっ、ナニコレっ!俺が動けないコト知ってて罰ゲームッ?!」
「///うるさいッ!寝ろッ!!」

ぎゅうっと頭を押し付けられ、幸せに窒息しそうだ。
さっきよりも随分早くなった鼓動を聞けば、彼の想いの深さを知れた様で。
残る力を振り絞りイルカ先生の背に手を回すと、パジャマの裾をぎゅっと握って目を閉じた。

end


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