(どこだ、ここ…)

最初に目に飛び込んできたのは見慣れない真っ白な天井だった。
思う様に動かない体に戸惑いながら、辺りに視線を彷徨わせる。


「目が覚めたか」

声のする方に目線をやると、その先には難しい顔をした五代目が立っていた。
横には一緒に任務に出ていたはずのキノトと、今は五代目の下で修行を積んでいるサクラの心配そうな顔が並んでいる。


「キノトッ!書簡は…っ!」

キノトの顔を見るなりハッとして起き上がる。
左肩がズキリと痛んだが構っていられなかった。

掠れる声で尋ねた俺に五代目が眉間に皺を寄せて声を掛ける。

「今の状態が分かって言ってんのか。書簡はお前がぶっ倒れた後キノトが無事届けたよ。
ったく無茶するなって言ったのを忘れたのかい?あんな術まで使いおって…」

腕組みをしながらこちらを見下ろす。
何時も綺麗に彩られている唇は不機嫌そうに歪められていた。

「イルカ、お前が俺を守ってくれたお陰で任務は無事に成功した。俺が不甲斐ないばっかりにお前に怪我を…」
「いーや!他人を庇うなんざもっと力のある奴がする事だ。お前が死んだらアカデミーや受付は誰が代わりにやるんだい。
キノトだって一端の忍だ。お前の助けが無くたって自分の身は自分で守っただろうに」


口は悪いが自分を案じてくれている五代目の言葉。

五代目は人の命を預かる医療忍でもある。
例え戦場だとしても命を蔑ろにする行為を酷く嫌うのだ。


正直な所、キノトの力を軽んじて見ていた訳じゃないが身体が勝手に動いてしまったのだから仕方がない。


だがこんな事を言ったらお小言が倍以上になって返ってくるのが目に見えるので、今はモゴモゴとしたまま俯いた。


どうやら自分はチャクラ切れと出血の為に数日寝込んでいた様で、その間キノトはずっと付き添っていてくれたらしい。

「意識が戻ったんならもう大丈夫だろ。キノト、お前はもうお帰り。今回の件はイルカの自業自得なんだから気に病むことはないよ。分かったかい」
「は、はい…」

五代目の有無を言わさぬ厳しい言葉に、キノトは何度もこちらを振り返りながらも病室を後にした。
サクラは先程、胸の傷の処置の為に包帯やら薬品やらを取りに出てしまっている。


残されたのはイルカと綱手の2人のみ。
しんと静まり返った病室に綱手の大きな溜息が漏れた。

「…イルカよ、余り周りに心配掛けるんじゃないよ。お前のその自己犠牲的な性格、近くにいる者にとっては辛いだけだぞ」

暗にカカシの事を言っているのだろう。
今は里にいないあの人がこの事を知ったら、どんなに怒り、悲しむか。
自分に立場を置き換えてみれば、この身を切られるよりも辛いのに。

「申し訳ありません…」

己の驕りと未熟さが情けない。
素直に謝罪の言葉を口にし下を向いたままだった顔を上げたその時、急に外部が騒がしくなった。

「何だ?騒がしいな…」

ドタバタドタバタドタバタ…ぐわらッッ!!!!
「イルカせんせぇッッ!!!!」


―――騒音と共に現れたのは、ボロボロの忍服を着たカカシだった。


「カカシッ?!」
「カカシさん??」

ぐわしッ
「せんせっ!!ちょっとアンタ怪我したってホントなのッ?!しかもチャクラ切れで動けないってどーいうコトッ?!」

強い力で思い切り両肩を掴まれ、前後にガクガクと揺さぶられる。
振動が傷にダイレクトに響いて思わず顔を顰めた。

「いっ、痛いですよカカシさん」
「カカシッ!イルカは怪我人だぞ!そんな風にしては傷口が開くッ!!」

2人から同時に責められパッと手を離すと、一歩下がってまじまじとイルカを見つめる。

「す、すみませんつい…。怪我、酷いんですか?」
「仲間庇って左肩から胸にザックリだ。幸い一緒にいた奴の手当てが早かったから失血死は免れたがな」

五代目の言葉にカカシが覗いている右眉を吊り上げた。

「どうしてそんな無茶をしたんですっ!!アンタ死んだらどうするんだッ!!」
「あ、あの…っ、すみません…」

想像していた通り悲痛な眼差しで詰め寄るカカシに胸が痛む。
いつもは立場が逆なだけに、カカシの気持ちは痛い程良く分かるのだ。

「イルカは仲間を守りたい一心だったのさ。ま、分不相応な行動は褒めらたモンじゃないがな。本人も反省している様だし、今回は許しておやり」

カカシは暫く膨れっ面をして押し黙っていたが、綱手へと向き直り恨みがましそうな目線で訴えた。

「て言うか五代目、イルカ先生が任務に出るなんて俺聞いてませんよ?!」
「アカデミーは夏季休暇なんだし、忍が任務に出るのは当然だろう?なんで火影の私が一々イルカの仕事をお前に報告せにゃならんのだ」
「うっ…そりゃそうなんですケド…」

綱手に当然の事を指摘されては、流石のカカシも二の句が継げない。
ふと、今度は思い出した様に綱手がカカシに向かって言った。

「ところでカカシ、お前任務完了報告はどうした。ココに来る前にする事があるだろ」
「執務室に報告行ったらアナタ留守だったじゃないですか。行き先聞けば入院してるイルカ先生のとこだって言うからもうビックリして…」

カカシの言葉に納得したようで、ぽんと手を打つ。
「ああ、そうか。で、どうだった。どうやら珍しくチャクラ切れも起こして無いみたいだし、上手くいったようだね」
「ええ、お陰様で。特Sなんてのは名ばかりのラクな任務でしたよ。なんか得しちゃいましたぁ〜…ってそんな事よりっ!!」

がばぁっと再度イルカに縋りつくと、手を握り締めて綱手を振り返る。

「この人、どーなっちゃうんですかっ?!まさか一生ベッドの上とかっ?!」
「あーもー上忍がこれしきで騒ぐんじゃないよ!鬱陶しいっ!
意識も戻ったし、傷が塞がるまで無理は出来んがもう2,3日すりゃ退院してもいいだろ。じゃ、私はもう行くよ。後は二人で楽しみな」
「えっ、たのっ…!!」

意味有り気に口角を上げると、綱手は後ろ手に手を振りながら不穏な言葉を残して病室を出て行ってしまった。



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