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□鶴姫奮闘録?
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海路、小田原へ現れた孫市と鶴姫に、北条軍はすわ対豊臣再戦かと大騒ぎになった。
「皆の者落ち着けい、彼らは客人よ」
風魔のな、と主・氏政の言に今度は困惑する。忍びに用向きなど聞いたこともない。よいから迎えいと命ぜられ、家臣たちは首を傾げながらも一行を迎え入れた。
「久しぶりじゃの、雑賀よ。茶でも」
「いらん」
いいから風魔を出せと言えばやれやれとため息を吐き、老将は櫓のひとつを指した。
「先程上杉の忍びが参ってな、あちらにおる」
「それは好都合」
場合によってはまとめて殺すと言い掛かりに近い思いを抱きつつ、孫市は氏政の御前を辞した。鶴姫も慌ててあとを追う。

「まったく、若いモンはせっかちじゃのう。のう、傅役よ」
ずず、と茶を啜る翁に残された鶴姫の若き傅役ははあ、とため息とも応えともつかない声を零した。

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「風魔っ居るか!」
戸を蹴破る勢いで孫市は櫓へ入り梯を上がる。兵が詰める間はがらんとしていた。
「居るのだろう、姿を見せろ」
北条のおじさまに話は通している。そう告げた途端、風が吹き眼前に風魔小太郎が現れた。
「宵闇の羽根のっ……」
呼びかけて駆け寄ろうとした鶴姫だったが、続いて姿を現した女忍びを目にして立ち止まった。
「何だ、雑賀の長に巫ではないか」
お前に客人というからどこぞの大名かと思ったがなと遠慮なくものを言うのはまばゆいばかりの美貌を振り撒く女性。上杉の忍び・かすがであった。
「つるぎだな、丁度良い。お前にもかかわることだ」
「私にも、だと?」
訝し気に寄越す視線すら美しい。思わずため息を零す鶴姫をちらりと見てから、おもむろに風魔へ問うた。

「宵闇の羽根の方、お前は女の価値を胸の大きさで決めるのか」

 ーーその時の風魔の慌てぶりは傑作だったと、のちにかすがは語った(もっとも、端から見ている者にはまったくそうとは思えなかったのだが)。
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