Short◆BSR

□鶴姫奮闘録?
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「……さっ、雑賀! お前何を突然」
 嵐のただ中にあった沈黙をかすがが破る。驚愕をそのまま表した声にも動じず、孫市は応えを返した。
「鶴姫が言ったのだ。宵闇の羽根の方がつるぎの胸を覗き込んでいた、と」
 言い逃れは許さんと言い切って、孫市は銃口を風魔に向けた。風魔はぴくりとも動かない。
「あ、あのごめんなさい宵闇の羽根の方。覗き見るつもりはなかったんです」
 けれどお二人の間に入り込めなくて、と小さな声で俯くいとけない巫に、かすがも(己にまったく非はないにもかかわらず)罪悪感を抱いた。
 そのような状況はあるにはあったが、決して誤解を招くようなことではない。さっさと解いてやろうとかすがは鶴姫に向け口を開いた。
「あのな、巫。それはおそらくーー」
「ヤアヤア皆様お揃いでっ」
 かすがの声を吹き飛ばす勢いでやってきたのは、そのかすがについて来た風来坊こと前田慶次。氏政の茶につき合っていたところ、孫市が来ていると聞いて会いに来たのだ。
「よお孫市、今日もキレイだねえ! かすがちゃんと並んだらどっち見て良いか分かんないよ。でもまあ俺はやっぱり孫市かなー。お、鶴ちゃんも来てたのか。相変わらず可愛いねえ」
 何だよ小太郎独り占めすんなよーとその場の空気を読むどころか攪拌する慶次に、孫市が声をかける。
「前田」
「孫市ぃ〜。慶次で良いって言ってるじゃない」
「分かった。それで前田」
「……何だい?」
 いつものやり取りにがっくりとうなだれながらも慶次は孫市の言葉を待った。

「お前は女の価値は胸の大きさにあると思うか?」

「……へ?」
 思わずかすがのほうを見遣ると、かすがも複雑そうな顔で頷いた。
 慶次は訳も分からずかすがと孫市を交互に見比べていたが、やがてううん、と腕を組んだ。
「そこだけに価値があるなんて思わないけどな〜」
 好みなんて千差万別、だから恋の花は百花繚乱ってね。
「そうか」
 慶次の答えを聞いた孫市の声にほっとしたような響きが混じっているのを、慶次ともあろう者が迂闊にも聞き逃してしまった。つるりと余計な言葉を加えてしまう。
「でもまあ、男だったらそこに目がいっちまうのは性ってもんだけどねえ……え?」
 からからと笑う慶次が殺気を感じたときには既に孫市の銃は火を噴き、かすがの苦無が舞い飛んでいた。
「え? 何なになに何なのこれ?」
「うるさい慶次! お前最低だ!!」
「見損なったぞ前田! いっそ死ね!!」
 逃げ惑う慶次をかすがと孫市が容赦なく追い詰める。ぎゃあぎゃあと叫びながら慶次は辛くもその場から逃れた。

「「……チッ」」

 同時に舌打ちしたかすがと孫市が目を合わせ、同時にため息を吐いた。
「……興が削がれた。酒でも飲むか」
「ならばつき合おう。氏政公へ土産に持ってきた酒がある」
「それは有り難い」
 意気投合した豊かな胸のふたりは武器をしまった。
「鶴姫、私は先に戻る」
 宵闇の羽根の方、姫を頼むぞと言って孫市が先に櫓を降りた。続けてかすがが降りようとして振り返り、誰もいない空間に言葉を投げる。
「巫、風魔が私の胸を覗き込んでいたのはな、慶次の夢吉を預かっていたからだ」
 そいつは意外と生き物が好きなんだと言い置いて、かすがも姿を消した。
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