Short◆S-H

□天下普請
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「して、御用の向きは何でしょうか」
「…『何用か』ではないわ」
まさかそなたに呼び出されて江戸へ来る羽目になるとはとひとしきり愚痴を零す。
「呼び出しただなんてとんでもない。それは殿の家臣たちが…」
「わざわざ駿府まで泣きついて来たから此処におるんだろうがああぁぁっ!」

どうも高虎相手だと血管が切れやすくなって困る。

深く呼吸をして、気持ちを十分に落ち着かせてから、家康は高虎に問うた。

「城の改修がとんと進んでおらぬそうだが…何か不都合でもあるのか?」
「不都合ですか? まさか」
至って順調に進んでおりますと言い抜ける高虎を睨みつけ、家康は重ねて問うた。
「ならば図面はできておろう。此処へ持て」
「………お見せしても宜しゅうございますが、本当にご覧になりますか?」
「その為に来たのだ。良いから見せい」
「……かしこまりました」

配下の忍びに(普通に側近を連れて来ないのか疑問だが敢えて触れない)図面を持って来させた高虎は、数枚にわたるそれを家康の前に広げた。

家康は――絶句した。

「これが…普請する城の図面か?」
「はぁ…いくつか案を出してみたのですがどうもしっくりいきませんで」
ほかの大名もこれでは進められぬと仰いますし、困ったものです。やはり私なぞには荷が勝ち過ぎたのでしょうなと、高虎は表情を変えず淡々と言上する。


「……あ」
「あ?」
「あったりまえじゃこのうつけ者があぁぁっっ!!」

――結局、家康はキレた。

それもそのはず、高虎が作成した図面はことごとく城の体を成していなかった。
登城の道には罠がある門はからくり仕掛けになっている広間に落とし穴はある(しかも毎日場所が変わるらしい)鯱があるべき場所に謎の物体(鏡餅か?)はある果てには何故か三成の居室がある(しかも奥に)……。

「大名すべて殺す気かあっ!」
しかも天守閣に餅を飾るとは何事だ更にいえば石田三成が生きているのは公然の秘密だろうが!
…と悪口雑言が身体中を駆け巡ったが、家康は辛うじて耐えた。流石忍耐で天下を手にした男である。

「…早い話が、そちはさっさと自領に帰りたいのだな」
「何故そうなります? 私としてもこの職を全うしたい」
「黙れアホンダラ」
「それはあんまりな」
笑顔で家康の攻勢をかわす高虎に、家康はもう数えたくもない何度目かのため息を吐いた。


「…致し方なし、か」


高虎を下がらせた(というよりむしろ追い出した)家康は、しばしの熟考ののち、さらさらと筆を走らせて控える小姓を呼んだ。
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