Short◆S-H

□宣戦布告
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徳川に勝利したものの天下は家康に明け渡し、そして恃みにされていたはずの豊臣家とも袂を分かって、三成はたまきとともに新たな道を探し始めた。
とはいっても、あてどなく彷徨うわけにもいかない。ひとまず堺へと足を運び、適当な宿をとって向後を話し合った。


その夜。


障子の滑る微かな音に、三成は目を覚ました。
バカだ鈍いと言われる三成とはいえ、一応は武将だ。しかも関ヶ原を糧とし、ために(何故か)大手を振って歩ける立場でもなくなったから、神経を研ぎ澄ますようになっている。しかし、己より遥かに優秀なたまきの気配が全くない。

「護衛の嬢ちゃんならぐっすり寝てるよ」

不意に声を発した影を睨みつけた。

「藤堂…高虎」
「その節はどうも」
「たまをどうした!?」
騒ぐわけにはいかないが、怒気を込めて三成は高虎に問うた。
「心配しなさんな。アンタと話す間黙ってて貰ってるだけだよ」
「話だと? こんな場でか」
「だってアンタはもう佐和山へは戻れないだろ?」
謁見の場はない。だからこうして出向いたのさと、事も無げに高虎は言った。

「…それならば、話とやらをさっさと済ませてもらいたい」
三成は居ずまいを正し、高虎に向き直った。
「…アンタは本当に…」
格式張る、とは声に出さず、高虎は三成の正面に片膝をついた。

「はつはもういないぜ」

いきなり核心に触れた高虎の言葉に、目を見開く。
覚悟していたとはいえ、突きつけられた事実に、三成は唇を噛んだ。
そんな三成に頓着せず、高虎は懐から出したものを三成の前に置く。

はつの簪であった。

「アンタに持ってて欲しそうだったんでね。不本意ながら届けに来た」

本当はそんな言伝など預かってはいない。だが、そんな気がした。

それを言い訳に、高虎は此処へ来た。認めたくはないが。

「…かたじけない」

簪を握りしめ、礼を言う敵方の元大将に、さしもの高虎も驚いた。

どれだけお人好しなんだ。

大体。

「分かってるとは思うが、はつを仕留めたのは俺だぞ」
「分かっている」
「ついでに言わせて貰えば、大谷吉継を討ったのも俺の策だ」
俺自身でないのが残念だがなと、それは真実と思える声音で呟く。

吉継の名に三成の身体が僅かに震えた。
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