Short◆S-H
□遺愛の品
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「高虎…殿?」
いつの間に来ていたのか、三成があるはずのない人の気配に一室を覗くと、高虎が来て――眠っていた。
整理していたのか読んでいたのか、周りに書物を積み上げ、その隙間でこれまた書物を枕にして。
(珍しいこともあるものだ)
三成が高虎の許に身を寄せ、高虎が三成の許へ通い、やがて情を交わすようになっても、三成は高虎の眠る姿を見たことがない。
この屋敷に泊まるときも、三成が起きたときはすでに身仕舞いを済ませ(ついでに三成自身のそれも済ませられている)、煙管などをふかしているのが常だ。
そう、つらつらと廻らす思考に夜の情を思い出してひとり赤くなっていた三成は、己自身を誤魔化すように高虎を起こそうと手を伸べて――袷の間から目が離せなくなった。
高虎の懐に納まるのは、紛れもなく親友の扇子。
そして眠りに落ちて尚、袷の上からそれを愛おしむように添えられた高虎の掌。
その仕種に胸の奥がちり、と焦げた。
我を忘れて懐へと伸ばした指は、寸でのところで掴まれ、思い切り引き倒された。
周りの書物がばさばさと音を立てて崩れる。