Short◆S-H

□天下御用
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「高虎様っ大変!」
江戸藩邸にあるはずのない姿を目にして、高虎は目を丸めた。
「どうした嬢ちゃん? そんなに慌てて」
三成が転んで頭でも打ったかという戯言は、たまきの叫びにかき消された。

「殿が家出しちゃったのーー!!」



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「…で、何故儂の処へ来るのだ」
煙管片手に、今は隠居の身である家康は呆れたように、しかし少し楽しそうに高虎に問うた。

此処は駿府、大御所家康の居城である。
三成出奔の報を聞いてすぐ、高虎は家康を訪れた。拐われたとは欠片も思っていない。

「三成独りで行方をくらますことなどできません」
我が忍びが黙って行かせる筈はないのです。本気ならば尚更、三成の腕では逃げられません。また、我が邸に居ながら賊に拐われるはずもない。
高虎は焦慮を隠そうともせず、家康に言い募った。
「我が忍びを黙らせることが出来るのは、当主たる私以外はただお一人」

貴方様でございます、と慇懃に告げる。

「…あれに何を吹き込みました。そして何処へ」
「黙れ高虎」

カン、と煙管を灰盆に叩きつけ、家康は高虎を睨み据えた。

その眼力にさしもの高虎も射竦められる。
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