Short◆S-H
□朝まだき
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まだ光の差さぬ薄靄の、朝とも呼べぬ刻。
閉てられた障子の先、またその先の襖の奥では早くも二つの影が起き上がっていた。
「お前、どんなときでも寝過ごしたりしないのな。疲れないか?」
己も寝過ごすことなどめったにないのに、高虎が情人に問う。
「もう慣れてますから。…誰かがいらっしゃるときは疲れますが」
その問いに嫌味を乗せて答えながら、三成は覗き込む情人に笑みを向けた。
「…もっと疲れさせても良いんだがな」
「遠慮致します。さ、藤堂殿もお戻りください」
此処にいては家臣に示しがつかないでしょうと尤もなことを言って、三成はするりと着替えを始める。
身仕度を整えると、改めて高虎を追い出しにかかった。
「さ、早うお戻りくださいませ」
「…俺は間男か」
ため息を吐きながらゆるゆると立ち上がる高虎に、三成は微笑んだ。
「そのようなつもりはないのですが…口さがない者はそう噂も致しましょう」
「俺の家臣にそんな了見の狭い輩はおらぬがな」
「それでも、噂は風に乗りますよ」
俺よりも貴方のお立場が問題なのですと、三成は繰り返した。
「分かった分かった…ああ、三成」
「はい?」
返事と同時に抱き寄せられる。
「いい加減閨以外でも名前を読んでくれないかねぇ」
なあ三成、とわざと耳元で囁く。
「だっ…ダメです! けじめがつきません!」
高虎はますます腕に力を込める。きっと真っ赤になっているのが分かって楽しんでいるのだろう。
恥ずかしさに暴れ出した三成はしかし、続く高虎の言葉に動きを止めた。
「…お前は此処に囚われてると思ってるんだろうが自由の身だ。疲れたら休み、気が塞いだら外にでも出れば良い」
その声音はそれまでとうってかわった真剣味を帯びている。
「…俺は、大丈夫ですよ」
俺は此処に居たいのです。
貴方の、側に。
音を成さぬ言葉が届いたのか、己を包む腕の力が一瞬抜けて、すぐにまた息もできぬほど抱き締められた。
その苦しさすら心地よいと、三成は知らず笑みを浮かべていた。
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別に三成はMじゃない…と思う(爆)
ちょっと書き直しました…。
しかし戦国時代に「間男」って言葉あったのかなあ…すみません勉強不足です…。