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□弔
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見渡す限りの焼け野が原を、小十郎はただ、歩いていた。
自軍も武田軍も、そして敵方たる織田軍もすでに引き上げており、此処に止まる理由はない。
だが、小十郎は政宗に乞うて、この無駄な時間を手に入れた。
あの忍びは、この戦で死んだ。
屍を見たわけでも、首級を挙げられたわけでもない。
だが、自分には分かる。
証がないことが、存在を消した証。
一瞬の陰りに顔を上げると、虚空に黒い影があった。
黒い影は光を落とし、ひと声啼いて飛び去った。
影が落としたのは、消えた忍びの残骸。
鈍色に沈む頬当は血に塗れて、戦の壮絶さを思い起こさせる。
小十郎はそれを手に取り――彼方へと、放った。
「消えるなら、ひと欠片も残すんじゃねぇよ」
そんな物がなくとも、お前の声ぐらい聞こえてるんだ。
『二度と会えなくなるなら離れなけりゃ良かった、なんてね』
風に乗せてカラカラと笑う声が運ばれてくる。
「今更何を」
馬鹿な、ことを。
小さく笑って、弔いを終えた小十郎は踵を返した。