Limit Log

□ヤケノガハラ
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ねぇ言って
ちゃんと言って
私に聞こえるように
大きな声で
もう泣かないでいいように



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勝鬨が遠い。

数多の犠牲を踏み越えて得た勝利はしかし、新たな波乱を呼び起こした。
本当の決着をつけるため、すぐにでも大坂城へと赴かねばならない。だが三成には、やり残したことがあった。

毛利秀元に馬を借りてひとり駆けたのは、烏頭坂。「捨て奸」と呼ばれる必死の策に散った猛将最期の地。
彼の叔父は「我らは後ほど参ろうに」と、穏やかな眼で送り出してくれた。
彼とて本当はすぐにでも甥の亡骸を引き取りたかったに違いない。それを気遣ってくれたのは、自分と同じだと思ったからだろう。

親友の骸はきっと見つかるまい。
家臣などという言葉に収まらない忠臣の亡骸も、やはり戦場からは消えたという。

しかし、「彼」に会えるのはこれきりだ。


++++++++++

「…豊久殿…」

静かに横たわる彼の側に膝をつく。首を挙げる余裕すらなく、井伊軍は戦場を移ったのだろう。
しかし、最低限の身仕舞いはされていた。礼を尽くした井伊直政に胸の裡で謝する。

「我らの勝利です。あなた方のお陰です」

頭を垂れて語りかける。

「けれど、これからすぐに大坂城へ参らねばなりません。ですから、お別れに」
参りました、と言い切れずに涙が零れた。


きっと己は嫌われていた。けれど、戦場という異常な空間で僅かな刻を共に過ごし、最後には笑ってくれた。
笑顔の大きさと暖かさに、触れられていないのに包み込まれた心地がした。

もっと話したかった。

もっと知りたかった。


涙は溢れ、豊久の頬を濡らす。
拭ったそれの冷たさに震えた。



始まりもしなかったこの関係を、宙に浮いた心を、何と呼べば良いのか分からない。 だが、何かが終わってしまったと認めたくない気持ちが己を此処へ導いた。
あるいはそれを認めるために来たのかもしれない。それでも、やはり気持ちは変わらなかった。

「豊久殿」

亡骸を撫ぜながら、三成は語りかける。

「まだ戦いが残っています。それが終わったら、会いに行きます」

次にお会いする時はお互い笑っていられるよう、どうか見守っていてくださいと祈って、三成は立ち上がる。

踵を返した身体を吹き抜けた風は優しく、暖かかった。





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名曲使ってすみません〜!私も大好きなんです。
これ絶対豊三じゃないですね…豊三スキー様いらしたらすみませんもう多分ないので勘弁してやってくださいませ〜。読むのは好きだけど難しい…。
しかしまさか直豊書かずにこっち書くとは思わなかった…。

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