Short◆BSR

□責任の所在
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 珍しいこともあるものだ、いや初めてかと部屋に戻った小十郎は足元の物体をしみじみと見下ろした。
 足元に転がるのは甲斐の忍び、四半刻ほど前にふらりとやって来たから茶の支度をするため部屋に残しておいた僅かな間に眠り込んでしまったらしい。
 自他共に認める(としておいてやろう)優秀な忍びだから情人の部屋とはいえ他国でこんな無防備な姿を晒すようなことはしないはずなのだが此度の任務はよほど緊張を強いられたのだろう。
 屈み込んでまじまじと情人の寝顔を眺める。疲労のせいか寄せられた眉根の皺を撫ぜて、髪にそっと触れた。静かに静かに手を滑らせる。
 そうすることによって少しずつ表情が和らいでいるように見えるのは欲目だろうかと思いながら。
 うぅんとひとつ寝返りをうったのにぎくりとして身を離したが佐助はそのまま起きる気配もなく、より深く寝入ったらしい。この分では半刻、あるいは一刻も起きないかもしれない。
 此処に来て腰を落ち着けたのだからこの後は甲斐へ戻るだけなのだろうと判断して小十郎は雑務を片付けておくことにした。
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