Short◆BSR

□佐助が小十郎を庇って消える話(仮)
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「アンタはちゃんと、分かってるだろ?」
 俺様の使い道を。


 使い捨ての、命の生かす道を。その目はそう問うていて、それに己は頷いたのだ。


 愚かな、ことに。









      * * * * *


「せっかくだから楽しくデートしましょうよ〜」
「……アホかお前は」
 ゆく先は、関ヶ原。道連れの先は敵しかいない戦場へと、小十郎は佐助を伴い飛び込んでいた。主・政宗と佐助の主・真田幸村は敢えて搦め手から上っていた。正面突破は小十郎と佐助で行い、その混乱に乗じて政宗と幸村が徳川家康と石田三成を止める――若しくは、挙げる。

「ったくさあ、痴話喧嘩になんで飛び込まなきゃいけないのよ? 独眼竜も何考え」
「るせえぞ忍び、さっさと片付けろ」
「へぇへぇ。忍び使いの荒いこって」
 軽口はそのままに佐助はくるくると飛び回り屍を生み出してゆく。小十郎も刃で道を拓いてゆくが、空から地から自在に仕掛ける忍びの技には内心舌を巻いていた。
 これならば政宗様たちを煩わせることはないだろう、その思いは慢心でも油断でもなく信頼だと、小十郎はその瞬間まで思っていた。

 旦那、と焦ったような声がして、続いて幽かな、本当に幽かな呻き声。
 嘘だろ、と呟く声に誘われて振り返れば――そこには困ったように笑う、血に染まった情人がいた。
「さ、す」
「……ごめんね」
 何が、と問うより早く佐助は小十郎からおおきく飛び退き、同時に彼の周りにいた敵を引き寄せる。敵の塊に埋もれてゆく佐助をもう、認識することはできなかった。その塊を黒い影が屠っているのが分かる。本体は消えても分身は動けるのか、と妙なことに感心した。
 その思考があまりに場違いだと、背後からの殺気に知らされる。勝手に薙いだ刃は的確に敵の胴を払い、さらには兜を飛ばした。
 その足軽が流す血に、一瞬前の情人を思い出す。さっきまで、背にいたのに。

 いない。

 認識した途端、身体中が沸騰した。
 咆哮とともに瞬時に周りの敵を突き破る。構えもなく、守りもなく、ただただ、殲滅することのみを小十郎の身体は欲した。大切にしていたつもりの存在を失った嘆きも、それが己の油断から来ていたのだという悔悟も、なかった。
 小十郎の振るう刀の前には石田軍も徳川軍も等しく無力で、本多忠勝すら空へと飛び去り、大谷刑部は得たりと笑ってその身を態と小十郎の前に晒し斃れた。
 徳川と石田が戦う場へと続く道を刀を引きずり駆け上がる姿を止める者は誰もいない。政宗たちはまだ関ヶ原へ着いてはいなかった。本来ならば政宗の到着を待つべきなのに、小十郎にはそれすら思い及ばなかった。

『忍びの使い道、忘れないでよね、小十郎さん』

 声がしたと思った瞬間、覚えのある得物が飛んできた。カン、とやや鈍い音で叩き落とす。
「ったく〜、伊達軍は小十郎さんの暴走に慣れてるかもしれないけどさあ、こっちは慣れてないんだから頼むよ−」
 その音で、その声で我に返った。辛うじて刀を取り落とすのを耐える。一度柄を握り直し、ゆっくりと鞘に収めて振り返った。
「……佐助……」
「いやあ、俺様愛されてるなあ、ほんっともうしーあーわーせーってえええええ」
「テメエ騙しやがったのか!!」
「誤解ゴカイごかいだってばもー! あれは影!! 分身!!」
 本体死んで分身が動けるワケないでしょー、旦那なら分かってると思ったのにと口を尖らせる忍びを張り倒そうとして振り上げた手は、そのまま橙の髪をくしゃりと撫ぜた。
「……小十郎、さん?」
「怪我、してんだろうが」
 とりあえずそれ治すまでは待ってやる、後で覚えていろと言い捨てて、小十郎は政宗を迎えるべく虎口へと向かった。
 そのまま一緒にいては、安堵で余計なことを零しそうだったからだとは、言ってやらない。
「テメエは本多が来たら何とかしておけ」
「ええええええええええええ!? 嘘だろおおおおおおお!?」
 態とらしく嘆く忍びにひとつ笑んで、小十郎は情人に背を向けた。


      * * * * *


「……血ィ、流してて良かったねえ」
 ばれちゃうとこだったよ、と忍びは血まみれの装束を握って笑う。
 そうして彼方へ飛び去る烏へと、言葉を投げた。


「…これでよかった?『俺様』」
 

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