Short◆BSR

□I return without fail.
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敵の策にまんまと嵌るとは、猿飛佐助一生の不覚、なーんてね。

あっけらかんと笑う佐助に、幸村は怒声を浴びせた。
「何を呑気に言っておる! この囲みを抜けねば秀頼様がっ…!」
眼下に広がるは十重二十重と茶臼山を囲む敵の軍勢。真田幸村をこれほどまでに恐れるか、と佐助は込み上げる笑いを堪えることができなかった。

「旦那、あのタヌキに見込まれてるねえ」
「戯言を言っている場合か!」
幸村は気が急いて仕方ないらしい。
もっともそれは佐助も同じであったが、ただ一つ、幸村とは異なる想いも秘めていた。


この最期の時を、一瞬でも長く共に。


けれど、時間は無情に過ぎてゆく。

「…さて、旦那。ここからは二手に分かれましょ」
「なっ…何を言う! 僅かながら左手が手薄だ」
そこを共にと言う幸村に、佐助はかぶりを振った。
「確かにあそこは手薄だけど、右手のほうが士気は低い。そっちなら旦那一人で突破できる」
「そなたはどうするのだ、佐助」

問われて精一杯の笑みを向ける。覚悟を知られぬよう。

「俺様たち忍びはサクッと撹乱してから行くよ。裏手にも何かいるみたいだからさ」
精々派手にいくから旦那はその隙に堺へ向かってね、と笑顔で言う。

「ここじゃ大車輪とか派手な技はダメだよ」
「分かっておるわっ」
むくれる幸村の頬を摘み、背を叩いた。

「じゃーね、旦那。また後でね」
「…お主、本当に…」
「だーいじょーおぶ! 俺様を誰だと思ってんの? これ終わったら今度こそお休みと特別報償貰うんだからねっ」

必ず戻るからと言い切って、佐助はくるりと背を向けた。

「…相分かった。行くぞ、佐助!」
「了ー解っと!」

合図と共に駆ける背を、佐助はそっと見送った。

残された自分を囲むのは、同じ忍び。消耗していたとはいえ、幸村に気づかれぬほどの手練れたちだ。
恐らく自分は此処で朽ちるだろう。

だから。


「――さあーて、お仕事お仕事」





【だから振り返ってはダメ】




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主従ってイイね!
川中島とも思ったのですが結局大坂にしてしまいました…。

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