Short◆S-H
□天下御用
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「…確かに石田殿の行方は知っておる」
伏せた面を思わず上げると、しかめ面の家康と目が合った。
目の奥は、笑っている。
「だが、今度のこと、望んだのは石田殿のほうぞ」
儂は相談を受けて策を献じたまでよ。
家康の言葉に、高虎は少なからず動揺した。
三成が望んだ。己のもとから離れることを。
何か嫌な思いをさせたのだろうか、三月の留守は長すぎたか、仕事と分かっていても寂しかったか、文は滞っていたか、もしや出立前の閨でのことか……などとあれやこれや頭を過ぎる。
「…虎、高虎」
呼び掛けも耳に入らず青ざめる高虎を、家康は満足そうに見やる。
「しっかりせぃ、高虎」
声と同時に飛んで来た煙管に、ようやく高虎は我に返った。
「此処で悩んでおらず石田殿に直接聞け」
さらさらと居場所を書きつけ、高虎に投げる。
挨拶もそこそこに消えた高虎に、家康は耐え切れず声をあげて笑った。
「たまには振り回されるが良いわ」
しかしあの策士が小僧に相当参ってると見えると、策士以上の古狸は更に笑った。