Short◆BSR

□鶴姫奮闘録?
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「小田原の、お城で」
「小田原? 奴に会いに行ったのか!」
「違うんですっ! 北条のおじさまとお茶の約束を……」
鶴姫は世間に疎い。できれば恋路を応援してやりたいが相手は「伝説の忍び」である(しかも雇い主はお騒がせの北条だ)。巫としての力を利用されぬとも限らない。
再び傅役を、今度は力を込めて睨めつければ、顔面蒼白になって深く深く頭を垂れた。拝むように手を合わせる姿に彼なりのがんばりを見てとりあえずは許してやる。
それはともかく。
「それで? 会ったんだな」
確認するとこくりと頷く。それにしては空気が暗い。
「宵闇の羽根の方は……美しい真昼の光色の髪の方とお話しされていたのです」
光色の髪といえば上杉のつるぎだろう(大友だったら興ざめだ)。しかしどう考えてもそのふたりは闘いこそすれ惚れ合うなどありえない。
「単に情報交換ではないのか?」
 忍び同士、武人には分からぬ繋がりがあるやもしれぬと慰めるが鶴姫は首を振る。
「いいえ! ……だって……あの方は……」
続く言葉に、孫市は絶句した。
「あの方は…宵闇の羽根の方は……女の方のお胸を覗き込んでいたのです!!」

その場の空気が、凍った。


「……ゆくぞ、鶴姫」
「え……? どこへですか?」
「小田原に決まってるっっ!!」
「きゃあっ!」
叫ぶと同時に立ち上がった孫市の、凄まじいまでの殺気と勢いに鶴姫が思わず倒れ込む。しかし孫市は鶴姫のほうを見てはいなかった。


「……殺す」


豊かな胸に物騒な誓いを刻み込んでいたのである。
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