ダルいズム。

□憂鬱遊園地
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 教師になって嫌な事は数々あるが、遠足の引率はかなり上位に食い込む。
酒は飲めないし若いやつらに混じって遊ぶトシでもない。
これなら家で楽器を弾いていた方が随分楽しいだろう。
 風祭はオレンジジュースを飲みながら考えていた。
甘い。
オレンジは風味付けに使われているくらいでただの砂糖水だ。
これなら茶にするべきだったか、と正面にいる後輩に視線を投げる。
彼は温かそうにココアをすすっていた。
 茶髪にピアス、と特徴を挙げれば生徒のようだがれっきとした同僚であり、後輩だ。
佐々岩は眼鏡を曇らせてため息をついた。

「ココアは好きなんですけど……こういう時はいただけないですねィ」

 眼鏡を胸ポケットにしまうとまたため息をついた。

「別にいいだろ。お前伊達じゃねえか」
「いやァ、最近なんか妙になじんじゃって、外すとなんか違和感がねィ」

 そう言ったそばから眼鏡をあげようとしていた。
日常的になった事による失敗を誤魔化すのは難しい。
とりあえず佐々岩はにやにやと笑っていた。
 暇だ。
生徒たちは楽しそうに遊園地で遊んでいる。
このくそ寒いのに水の絶叫マシンで遊んでずぶ濡れになっている生徒もいた。
あれは煙草が濡れそうでいやだな、と思いながら見送る。

「その点、眼帯はいいですよねィ、曇らないし」
「その代わりラーメンとか食ったら湿るぞ。大体、眼鏡と眼帯一緒にすんな」

 氷の溶けたオレンジジュース……と言うよりもオレンジ風味の砂糖水は薄くてまずい。
どうしてコーヒーにしなかったのかと後悔してしまう。
ああそうだ、去年飲んでめちゃくちゃまずかったからだ。
どれを頼んでもまずいのだろう。
遊園地の売店とはそういうものだ。

「おいマドカ」
「はィ?」
「暇だ」

 端的に現状を述べると、後輩はきょとんとした顔ではあ、そうですねぃと気の抜けた返事を返した。
期待してあた訳ではないが、予想以上に役にたちそうもない。

「遊んできたらどうですかィ?春太とか捕まえて」
「お前、俺がメリーゴーランドやらコーヒーカップに乗って楽しいと思うのか?しかも野郎と」
「や、そんなメルヘンなもんにばっか乗らなくても……ジェットコースターとかあるじゃァないですか」
「俺がそんな絶叫マシンに乗ってきゃあきゃあ喜ぶと思うのか」
「思いやしませんけど……」

 佐々岩はしばし思案するとおもむろに左の手のひらを風祭に向けた。

「?」

 今度は風祭がきょとんとしていると手を翻して手の甲を向ける。
そして右手をすっと滑らせた。
次に左手がこちらを向いた時、そこには一組のトランプが現れていた。

「どうです?」
「左手見せて注目集めてる間に右手にトランプ持ってたんだろ」

 手厳しいですねぃ、と苦笑いを浮かべながら佐々岩はトランプをきる。
その様子はかなり手慣れていて先ほどのくだらない手品よりも見入ってしまう。
トランプが魔法のように動いていく。
そして佐々岩は意味もなくトランプを弄びながらにやりと笑う。

「風祭先生、カードしましょうよィ」
「ま、暇つぶしにはなるな。チンケな手品よりずっと良い」
「チンケって……俺うまいでしょィ?」
「うまいから腹立つんだよ。ウマい奴はどや顔になるからムカつく」
「先生ひどいー」

 相変わらず笑いながら素早くカードを分けていく。

「ガキじゃないんだ、何か賭けようぜ」
「先生ってば悪いですねィ」
「金じゃなきゃ良いだろ。負けたら煙草一箱な」
「まあ良いですよ?俺強いですから。ポーカーで良いですよね」
「俺にポーカーを挑むとはお前も哀れだな」
「強いんですかィ?」
「留学時代は皇帝と呼ばれた男だぞ」

 不適に笑うと、佐々岩もにやりと笑った。
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