short story

□砂
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 倉庫があった。
 その倉庫には明かりはついていなかったが全体的にほんのりと明るかった。
 光を発している物体は、砂だった。
 砂は広い倉庫の全体を統べるような山形に広がっており、
その山の中腹辺りには少女が寝そべっていた。
年は十一、二歳ほどで色素が薄い少女だった。
 少女が砂を力強く握り締めるとさらさらとした砂は一瞬にして塵となり、虚空に舞う。
 それが彼女の食事だった。
 ここ一週間ほどそれしか食べていなかった少女は、早くまともな食事が来ることを祈っていた。
しかしそう簡単に手に入れられる物でもないということも知っていたし、
万が一手に入ったとしてもそれが彼女の口に合うかどうかというのはまた別問題だった。
 砂の食事だけでも腹は満たされる。
生きることはできる。
しかし普通の食事の方が格段においしいし何より楽しいのだ。
 突然、倉庫の扉が開き、外の風と闇とともに男が入ってきた。
小さな女の子を抱えている。
 男は肌を一切出さず、長袖長ズボンで手袋をしている。
その上目出し帽を被りサングラスをかけていた。

「食事だ」

 男が言い、抱えていた女の子を少女の足元に放り投げる。
女の子は気絶しているのか声を出さない。

「こんなに小さな女の子、食べられないわ。かわいそうだもの」

 少女はかぶりを振った。
目の前にいるのは小学校にも上がっていない女の子だ。
少女は、心配そうに見ながらもさわろうとしない。

「そいつは誘拐されて、親が言うことを聞かなかった。
それで処理に困ったからここに連れてこられたんだ。
くだくだ言ってないで、食え。
今度いつ人間を食べられるか分かったもんじゃないだろう」
 
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