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□BLESSING―死の女神―2
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 もうもうとあがる砂埃。
それよりも耐え難かったのは腐臭。
死んだ兵士たちが物のように放ってあり、乾き切った血もなにもかもが異臭を放っていた。
 けれど彼女にとってはそれすらも香しい花の香りのように思えてくる。
 ここに存在し得る全てのものはわたしを祝福しているのだ。
わたしの勝利を、わたしがここに生きていること、全てを。

「死ね」

 愚かしくもブレードで切りかかってきた
名も無き戦士の額の真ん中。
そこを自動小銃で打ち抜く。
 小気味よい音が響き、戦士のからだは跳ねる。
跳ねて、ただの物になる。
 赤い髪をした女は嗤った。
そして、更に笑った。
 おかしくてたまらない。
笑いが止まらない。

「あははははははははっ」

 銃で応戦してきた『敵』。
あいつらも女の敵ではなかった。

「弱いっ弱すぎるっ
死ねっ死んでしまえ、虫ケラどもっ」

 赤い髪の女の哄笑は、真昼の空に吸い込まれて行く。
 ぴたりとその笑いがおさまったと思うと、女は無表情に自動小銃を死体の山に投げ捨てた。
代わりに、腰に差していたブレードを抜く。
先程の戦士の物とは比べ物にならない品。
銃も戦地も味方すらころころと気まぐれに変える彼女の、唯一変わらない相棒のブレード。
 彼女が目を細めて見つめるその先には、ネイティブの時代遅れな一群。
 最近まで、彼女が味方としていた一群。

「ルサンチマン、今その刃に血をくれてやる。
乾き切った大地!
今お前にも生え抜きの血をくれてやるよ!」

 女は人とは思えぬ速さで乾いた地を蹴る。
 もうもうと砂煙があがり、女の姿を隠して行く。

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!」

 真昼の太陽の光すら吸い込むような赤い髪をした女は、叫びながら切り続けた。
 人間とは思えぬ力で、声で、姿で、心で。
女は肉体を切り続けた。
 愛用のブレード、ルサンチマン。
怨恨を意味する刃を振るい、血を嘗めさせ続けた。
 乾いた大地を、赤い天の恵みで潤わせ続けた。
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