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□ヘブンリー・ブルー2
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 その日から、僕と雪美は頻繁に連絡を取り合うようになったのだった。
 雪美は大体白い服を着ていた。
そして何をしていても風船を見ると欲しいと呟くのだった。
その中に赤い風船がないと、少しだけすねる。
晴れている日は特別だった。
曇りの日や雨の日、夜などは別の色でもいいようだった。
 二人で会うようになってから何度目かの時だった。
その時は特別晴れ渡った空に赤い風船が映えていた事を覚えている。

「ヘブンリー・ブルー」

 雪美は唄うように呟いた。

「誰だったかしら。この世でたった一人、天上の碧を描く事の出来た画家は」
「さあ。僕には分かりかねるけど」

 左手を握ったまま、僕は答える。
画家の名前も知らなければその碧の色を見た事もない。
けれどその空の色は確かに天上の碧と呼ぶに相応しかった。
赤い風船を最も美しく見せる色だった。
 雪美は右手の力を緩めた。
 赤い風船は、天上に上ってゆく。
 風に吹かれながら、
ゆらりゆらりと、上ってゆく。
 僕は隣にたたずむ雪美の横顔を見た。
風船が飛んでいって、さぞかし哀しそうな顔をしていると思ったのだ。
しかし。

「……」

 雪美は幸せそうに目を輝かせていた。
うっとりと赤い風船がそらに上る様を見つめていた。
まるで、夏祭りの日、初めて僕が雪美に風船をあげた時のように。
僕は強く強く彼女の左手を握りしめた。
 やるものか、彼女をこの天上に渡してなるものか。
雪美は痛がる風もなかった。
まるで僕が隣にいる事すら忘れているかのようだった。
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