ダルいズム。
□苦痛に満ちた苦しみを背負う人
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手を伸ばせば届きそうなのに。
それなのに指先が触れる事すらできない。
抱き締めてしまえば壊れてしまうんだ。
だけど放っておけば、より壊れてしまうだろう。
そんな事、分かってる。
分かってる。のに。
「人間という生き物は」
勿体ぶった講釈には飽き飽きしている筈。
そんな事は理解していた。
それでも僕はこうして平静を装わないと君とろくろく話もできない。
面倒臭そうな君の視線は、相変わらず少し寂しそうで。
なのに本人は全く気付いていないのだろうから僕にはどうする事もできない。
「周囲を感知し、その周囲と自分とを区別する事によって存在している。その区別が正常に働かないと対人関係に異常ができる」
すごいのね。
欠伸をかみ殺した声。
すごくとも何ともないのに、適当な事でごまかそうとする。
「君は、区別できる人だろうか」
「どうかしら。あたしはいつも逃げることしか考えてないけど」
君らしい言葉に笑いがこみあげる。
そのまま声に出して笑えば君はもっと嫌そうな顔をするだろうから、唇の端を持ち上げるだけに留めた。
「またその笑い方」
相変わらずの表情。
相変わらずの視線。
相変わらずの口調で君は言った。
全く予想外の言葉で、僕は目をぱちくりと瞬かせる。