short story
□魔法の指先
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痛みというものは、私がどれだけ拒もうとも確実に忍び寄ってくる。
それを私は十分承知しているし、しかしかと言って甘んじて受け入れているかといえばそうではない。
私は痛みに抗い、何とか振り払おうと努力し続けている。
無駄な努力だといわれればそれまでだ。
それでも私は、抗わなくてはならない。
「……またか?」
彼は前髪をかきあげながら言った。
外は雨。
ビルとビルの、ほんの隙間に備え付けられた窓にもぱらぽらと雨音が聞こえる。
昨日傘を失くしたと言っていたからそのままで来たのだろう。
それもまた、彼らしい。
髪は濡れて額に張り付き白くて綺麗な服も煤けているように見える。
うっすらと彼の肌が透けて見える様子に、なかなかエロチシズムを感じた。
打ちっぱなしのコンクリートに、彼の滴らせる雨がしみを作る。
けれどそれは雨であって雨でない。
彼の体温を吸い生温くなった、かつて天から降りてきたもの。