ダルいズム。

□英語科準備室にて
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 最近、自分のペースを保てていない。
佐々岩は気付かれないようにため息をついた。
原因は分かっている。
そこのソファーから伸びている長い脚の持ち主だ。

「マドカ、コーヒー」

 そんな気持ちを知ってか知らずか……いや、恐らく考えてすらいないだろう。
風祭時也とはそういう男だ。
だからこそ、人に雑用を押し付けていながら自分は寝転がっているなどという芸当ができるのだ。

「……先生。この部屋にはポットもコーヒーもないんですけどねィ……」
「だから買ってこいっつってんだよ。購買行け」

 脚を組みかえながら事も無げに言う。
元々感情の起伏のない人だが、こういう時の無表情ぶりといえばない。
次は気付かれるように大きくため息をつく。

「先生……ここ、どこだがご存知ですよね」
「英語科準備室」
「特別棟四階のね。購買がどこだかご存知ですか?」
「お前、俺が何年ここの教師やってるかご存知か?」
「十一年」

 ソファーの背もたれを掴む。
覗き込むと白い眼帯をつけた男と目があった。

「分かってんじゃねえか。先輩命令だ。行け」
「俺が何のためにここにいるかご理解いただいてます?」

 風祭は少しだけ目をそらすと、細い顎を撫でながら考え込んだ。

「……俺と遊ぶ為?」
「違いますよ!なんで自分が頼んだ事も忘れてるんですか!」
「覚えてるよ。お前が俺にいじめてほしいっつー顔してたから、つい」
「してません!」

 どんな顔だ、と胸中で毒づく。
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