ダルいズム。

□眼帯さんととある女生徒
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 その日はやけに西日が眩しかった。
木々の影が廊下に並び、白い壁との対比に目を灼かれた。

「……はあ、今、なんて?」

 その影の間に立つ二人の内、大きい方が口を開く。

「……好き、です」

 応じて小さい影も言葉を発した。
風祭は細い顎を撫でて、押し黙る。
 中庭で一服して職員室へ帰る途中、生徒から呼び止められた。
今日の授業で出したプリントを提出され、その場で採点しようとした時、女生徒が口を開いたのだった。

「先生が、好きです」

 これでも四十年近く生きている。
結婚をしようとした事も一度はあった。
教師になる前は華やかな職業をしていただけあって、愛の告白をされた事は両手に余る程だった。
 だがそれでも、この女生徒の一言は風祭の動きと思考を止めるに充分な力があった。
 誰だっただろうか。
顎を撫でながら思案する。
スカーフの色からして二年。
確か選択授業で英語を取っているだけで、通常授業の生徒ではない。
眼鏡で、くせ毛のショートヘアー。
身長は普通、目と口が大きい。
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