short story

□阿修羅間
3ページ/3ページ

 ある夜、森で迷った一人の男が粗末な小屋に宿を求める。
小屋には一人の年若い女が住んでいた。
女は男に「粗末な小屋ですが、よろしいのですか」と問う。
しかし男は
「この森に住むという鬼に食べられてしまうくらいならば、言葉の通じる人間と共に過ごした方が良い」と答えた。
その鬼は黒い髪を振り乱し、背には醜い傷があり、
口は耳までかっぱと裂けて、その口からは金の牙が覗いているのだという。
女は男に一つだけ
「この奥の部屋は私の寝間で、いつもとり散らかしております故、そこだけは決して覗かないでください」と約束させると男を泊めることにした。

そして女はゆっくりと太刀を握り締めて笑うのだった。

「私は鬼、阿修羅間におちた者」
 
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ