ダルいズム。

□幻の絵
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 そして零斗くんは私の腕を動かして、まるでキスするように唇に触れさせた。
そして私が何事か理解する前に。
 舐めた。

「っっっ!!」

 勢いよく振り払う。
息が詰まって悲鳴は出なかったが、真っ赤な顔で睨み付けるとぽかんとした顔の零斗くんと目があった。

「あ……」

 我に返ったらしい零斗くんは、みるみるうちに真っ赤になっていく。
あっという間に耳や首まで赤くなっていく。

「わっ悪い!!なんか、その……っ!!」
「なんかじゃないよっ!零斗くんのばかっ!」

 口を手で覆い、その手を目元にやったかと思うと前髪をかきあげて頭をかいたりまた口元にもどしたり、とにかく目に見えて焦っていた。
それほど焦られると、私が怒る気持ちもどこへぶつけたらいいのか分からなくなってしまう。

「そ、その、なんかどんな味、すんのかと思って……」

 だんだん小さくなっていく声。
絶対に顔を見られないように下を向いて目を合わせない。
私も怒りよりも恥ずかしさが強くなって何も言えなくなってくる。

「じゃ、じゃあ、明日ね」

 震える声でようやくそれだけ告げると零斗くんに背中を向けて駆け出す。
もうこれ以上ここにいたらおかしくなってしまいそうだ。
 左腕が掴まれる。
 真っ赤な顔の零斗くんが、私の左腕を掴んでいた。

「……送る」

 真っ赤な顔で、まっすぐに私を見つめて。
ことさら低い声でつぶやいた。

「もうしません」

 私が黙っているのを怒っていると考えたのか零斗くんは言った。
 まっすぐに見つめる目。
への字に曲がった唇。
眉間に寄せられたしわ。
それは不機嫌な時の彼と全く同じだったけれど、不機嫌なのではないと赤い顔が教えてくれる。

「……うん」

 掴まれた腕はそのままに、並んで歩く。
隣が温かい。
 二人とも何も言わなかった。
何も言えないと言った方が正しいのかもしれない。
とにかく今は気まずくて、それなのに感じる体温がちぐはぐだった。
 不意に零斗くんの手に力がこもる。
ぎゅっと掴まれた腕。
私が見上げると綺麗な横顔があった。

「俺、キレイなものしか描くつもりないから」

 まっすぐに道の先を見つめる零斗くんは、顔を真っ赤にして言った。
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